088:山下が嫉妬して、目論見が外れる_6

小林綾乃は車の点検を終えたところだった。

遠くから高級ベンツが走ってきた。

ベンツを運転していたのは二十歳そこそこの若い男で、窓を下ろして小林綾乃に口笛を吹いた。

「お嬢さん、ワックスかけてよ。」

「中へどうぞ。」

若い男はタバコをくわえながら車を中に入れ、笑いながら尋ねた。「ワックスかけるのにどのくらいかかる?」

「30分ほどです。」小林綾乃は答えた。

「いいよ」若い男は頷いた。「じゃあ、待ってるよ。」

小林綾乃はワックスがけの作業を始めた。

一橋景吾が横から近づいてきた。「小林、手伝うよ。」

「うん。」

若い男はタバコを一服吸って、続けて言った。「お嬢さん、ここで働いて月給いくら?」

「見習いだから給料はないの。」小林綾乃は淡々と答えた。

給料なし?

若い男は笑いながら言った。「じゃあ、付き合わない?ちょうど彼女を探してるんだ。」