小林綾乃は車の点検を終えたところだった。
遠くから高級ベンツが走ってきた。
ベンツを運転していたのは二十歳そこそこの若い男で、窓を下ろして小林綾乃に口笛を吹いた。
「お嬢さん、ワックスかけてよ。」
「中へどうぞ。」
若い男はタバコをくわえながら車を中に入れ、笑いながら尋ねた。「ワックスかけるのにどのくらいかかる?」
「30分ほどです。」小林綾乃は答えた。
「いいよ」若い男は頷いた。「じゃあ、待ってるよ。」
小林綾乃はワックスがけの作業を始めた。
一橋景吾が横から近づいてきた。「小林、手伝うよ。」
「うん。」
若い男はタバコを一服吸って、続けて言った。「お嬢さん、ここで働いて月給いくら?」
「見習いだから給料はないの。」小林綾乃は淡々と答えた。
給料なし?
若い男は笑いながら言った。「じゃあ、付き合わない?ちょうど彼女を探してるんだ。」