しかし小林綾乃は帰ろうとはしなかった。「大丈夫です。もう眠くないから」
小林綾乃の返事を聞いて、一橋景吾はため息をついた。「今日もまた行列だな!」
そう言って、一橋景吾は続けた。「小林、そのカバンの中に何が入ってるの?随分重そうだけど」
「本よ」小林綾乃は淡々と答えた。
ラブレターも本の一種よね?
今日彼女は山ほどのラブレターを受け取った。少なくとも数キロはあるだろう。そのまま捨てるのはもったいないし、古紙として売れば少しはお金になる。だから山下おばあさんに渡して古紙として売ってもらおうと思っていた。
おばあさんも大変だし。
小林綾乃は歩きながらあくびをした。今日は調子があまり良くなく、前も見ずに歩いていた。修理店の敷居を越えようとした時――
バン!
彼女は壁にぶつかってしまった。
正確に言えば、人の壁だった。
このぶつかりで、小林綾乃は完全に目が覚めた。ぶつかって痛む鼻先を触りながら、顔を上げて犯人を見た。近すぎて完璧な顎のラインしか見えなかったので、一歩後ろに下がって「どうして前を見て歩かないの?」と言った。
さっきぶつかったせいか、彼女の声は鼻にかかっていて、可愛らしく、普段の彼女とは大違いだった。
山下言野も一瞬呆然とした。何かにぶつかった感じがしただけだった。
下を向いて見ると。
小林綾乃が既に彼の腕の中にいた。
こんな経験は初めてだった。
ただ...呼吸が乱れ、心臓も不規則に鼓動を打っているのを感じた。
数秒後、山下言野はようやく我に返り、少しかすれた、磁性のある声で「痛くなかった?」と尋ねた。
一橋景吾は入ってきた途端、山下言野のその言葉を聞いた。
痛い?
ちっ。
なんて狼のような言葉だ!
次の瞬間、一橋景吾は黙って身を翻し、三番目の兄と未来の義妹のために空間を譲った。
彼が振り返った瞬間。
志村文礼が急いでやってきた。
「リーダーは?」
一橋景吾は直接志村文礼の袖を掴んだ。「三番目の兄は中にいないよ。用があるなら俺に言えばいい」
志村文礼は足を止めた。「律水国の方で...」
一橋景吾は志村文礼を別の方向に引っ張った。「向こうで話そう」
部屋の中。
「ちょっと痛いけど...」小林綾乃は痛む鼻を押さえながら、「でも、障害が残るほどじゃないわ」