その上...
大谷仙依は確かに大谷グループの危機を何度も救ってきた。
山下言野が怪我をした夜、小林綾乃と大谷仙依以外に路地に入った第三者はいなかった。
小林綾乃と比べると、志村文礼は救助者が大谷仙依だと考えている。
大谷仙依は小林綾乃よりも実力があるからだ。
大谷仙依は幼い頃から名家で育ち、一流の教育を受け、多くの才能を身につけた。狂医に見込まれ、弟子になったのも当然だろう。
結局のところ。
狂医本人も十代で名を馳せたのだ。
もし山下言野を救ったのが本当に大谷仙依なら、小林綾乃の行為は実に卑劣だ!
彼女は大谷仙依の大谷家お嬢様の地位を奪おうとしただけでなく、大谷仙依の救助者としての名誉まで横取りした。
志村文礼は顎に手を当てながら、事の真相が分かってきたように思えた。
大谷仙依は名利に淡白な人物で、山下言野を救った後、名声を求めず立ち去ろうとしたのだ。
彼女は山下言野の恩に全く関心がなかった。
山下言野が恩返しをするかどうかなど、なおさら気にしていなかった。
しかし、この善行を隠そうとした行為が、小林綾乃に大きな利益をもたらしてしまった。
彼は推測する。
小林綾乃が山下言野に会った時、山下言野はまだ意識不明の状態だったはずだ。
山下言野が目を覚ました時に小林綾乃を見つけ。
自然と小林綾乃を恩人だと思い込んでしまったのだろう...
そう。
きっとそういうことだ。
志村文礼は大谷仙依に特別な印象を持っていなかったが、今や大谷仙依が狂医の後継者である可能性を知り、彼女に強い興味を抱くようになった!
彼は徐々に冷静さを取り戻した。
今は慌ててはいけない。
ゆっくりと、一枚一枚、小林綾乃の正体を暴き、山下言野に真の恩人が誰なのかを知らせなければならない。
そう考えて。
志村文礼は火洲にいる大江雲斗に連絡を取った。
一橋景吾ではなく大江雲斗に連絡したのは、志村文礼が一橋景吾を下半身で考える愚か者だと思っていたからだ。
一橋景吾は小林綾乃を信頼しきっていた。
小林綾乃を未来の義姉とまで考えているほどで、この件を一橋景吾に話せば、必ず調査に支障をきたすだろう。
黒武に至っては。
言うまでもない。
彼らが小林綾乃をWだと思い込んで以来、小林綾乃は黒武の女神となっていた。
しかし、彼らはどうして考えないのか。