100:お香を焚く_3

この言葉を聞いて、志村文礼は目を細めた。

なるほど。

なるほど、安田振蔵がこんなに傲慢な態度を取るわけだ。

西京に転勤することになったからか。

安田振蔵は関連情報を受け取ったら必ず西京に転勤できると思っているのか?

笑わせる!

安田振蔵は自分を甘く見すぎている。

後悔させてやる。

志村文礼は神月栄邦を見て、「神月主任、安田院長に会いに来てもらえないなら、もう話し合う必要はありませんね。私は忙しいので」

言い終わると、志村文礼はアクセルを踏み、神月栄邦にテールランプだけを残した。

神月栄邦は車が消えていく方向を見つめながら、眉をひそめた。一体誰がこの大物を怒らせたのだろう?

志村文礼が来てから、ずっと病院の顔だったのに。

今や顔が失われて、山口副院長にどう説明すればいいのか?

神月栄邦は頭を抱えて、頭痛がする思いだった。

志村文礼は怒りを抱えたまま、地下駐車場でも車を速く走らせていた。

その時。

突然、ある車から降りてくる細い影を見かけた。

黒いワンピースを着て。

7、8センチのハイヒールを履いていた。

カツカツカツ。

ハイヒール特有の音が地下駐車場に響き渡る。

志村文礼は無意識に速度を落とした。

なぜなら…

突然、この人物に見覚えがあると感じたからだ。

すぐに。

志村文礼はその人物が大谷仙依だと気づいた。

「大谷さん!」

志村文礼は驚いて声を上げた。

彼は大谷仙依こそが山下言野の本当の恩人ではないかと疑っていたが、今また病院で大谷仙依を見かけ、さらに「小林さん」が今日病院に来ていたことを考え合わせると…

もしかして大谷仙依があの「小林さん」なのだろうか?

でも大谷仙依はなぜ自分の姓を小林だと言ったのだろう?

志村文礼は眉をひそめた。

これは論理的に合わない。

ただし…

ただし大谷仙依が自分の正体を隠すために、わざと違う姓を名乗ったのでなければ。

そうでなければ、志村文礼はより良い理由を思いつかなかった。

結局。

大谷仙依は本来、名利に淡泊な人物なのだ。

もし彼女が名声や利益を追い求めるタイプなら、山下言野を救った後、黙って去ることはなかっただろう。

このように考えると、すべての論理が一気に通った。

しかし事実が解明されるまでは、すべては推測に過ぎない。

志村文礼は目を細めた。