100:お香を焚く_2

しかし彼は変わった性格の持ち主で、同僚たちともっと交流したいと言って、この大きなオフィスを選んだのだ。

まさか、こんなに早く引っ越すとは思わなかった。

彼が引っ越すのを見て、女性同僚たちの気持ちは複雑だった。

もっと志村文礼と親しくなれると期待していたのに。

やはり。

時が経てば恋が芽生えるという言葉は、決して嘘ではないのだから。

なのに、志村文礼はこんなにも早く引っ越してしまうなんて。

志村文礼は常勤ではなかったが、荷物は意外と多く、重要なものを何点か梱包し終えると、質問してきた同僚を見上げて笑いながら言った。「オフィスを変えるんじゃなくて、病院を変えるんだ。」

病院を変える?!

この言葉に、オフィスにいた他の医師たちは呆然とし、幻聴かと疑うほどだった。

城井芳子は勇気を振り絞って、志村文礼に尋ねた。「志村先生、転勤になったんですか?」

「転勤というわけではない。ただ、もうここにいる必要がないと感じたんだ。」彼は安田振蔵にチャンスを与えたのに、安田振蔵自身がそれを掴めなかったのだ。

城井芳子は密かにため息をつき、続けて尋ねた。「では、どちらの病院へ?」

「第二総合病院だ。」志村文礼は答えた。

この言葉を聞いて、オフィスの他の医師たちは議論を始めた。

青葉市はとても大きい。

青葉総合病院と肩を並べられるのは第二総合病院だけだった。

これまで。

青葉総合病院は神醫の弟子である志村文礼の名を売りにしてきた。

今、志村文礼が突然第二総合病院へ行くことになって...

これからは、彼らの病院は一つ格下がりになるのではないか?

現在の三級甲等から二級甲等に...

同僚たちの議論を聞きながら、志村文礼はそっと口角を上げた。

待っていろ!

安田振蔵はすぐに彼を頼りに来るはずだ。

すぐに、志村文礼は荷物をまとめ、箱を抱えてオフィスを出た。

彼の後ろ姿は非常に決然としていた。

すぐに、この件は心臓血管科の主任の耳に入った。

主任はすぐに追いかけて出た。

幸い、まだ間に合った。

地下駐車場に着いたところで、志村文礼が荷物を抱えて車に乗り込むところを見かけた。

神月栄邦はすぐに追いかけた。

「志村先生、お待ちください。」

声を聞いて、志村文礼はバックミラーを見て、神月栄邦の姿を確認した。

志村文礼は目を細めた。