小林綾乃は受け取らず、淡々とした口調で言った。「北谷おじいさん、私があなたを救ったのは医者としての責任からです」
「分かっている」北谷おじいさんは頷いて、「でもこれは私の真心なんだ。小林さんが受け取らないと、私の心がどうしても借りがあるような気がして」
ここまで言われて、小林綾乃は仕方なく受け取った。
これ以上断れば、他意があると誤解されかねない。
彼女が受け取るのを見て、北谷おじいさんはほっとした。「小林さん、開けて見てください」
言われて、小林綾乃は封筒を開けた。
中には。
公印が押された任命書があった。
漢方医学協会副会長。
それを見て。
小林綾乃は軽く眉を上げた。
この副会長の位置とは縁があるようだ。回り回って、また原点に戻ってきた。
しばらくして、彼女は北谷おじいさんを見て、穏やかな口調で言った。「北谷おじいさん、私を認めていただき、ありがとうございます。でも、今のところ漢方医学協会に入る予定はありません」
この言葉を聞いて、青木秘書部長だけでなく、北谷おじいさんも驚いた様子だった。
特に青木秘書部長は。
彼は元々小林綾乃がこの地位に相応しくないのではと心配していた。
まさか、小林綾乃が直接断るとは思わなかった。
彼女は...
漢方医学協会が何なのか分かっているのだろうか?
漢方医学協会が何を意味するのか分かっているのだろうか?
漢方医学協会は、すべての医療従事者が夢見る協会だ。
副会長の座は医学界の大物たちが血眼になって争う位置だ。
今、その地位が小林綾乃の目の前に差し出されているのに、彼女は何の反応も示さず、むしろ直接断ってしまった!
安田振蔵の目にも驚きが満ちていた。
封筒の中身は分からなかったものの。
小林綾乃の言葉から、おじいさんが彼女を漢方医学協会に入れたがっているのが分かった。
そう思うと。
安田振蔵は喉を鳴らした。
漢方医学協会は、彼がまだ会員になる資格すらない場所だった。
言い終わると、小林綾乃は封筒をテーブルに置いた。
北谷おじいさんは少し驚いていた。
小林綾乃は漢方医学協会副会長の座を直接断った初めての人だった。
もう一人は、姿を消して久しい狂医だけだ。