第29章 貴族学校

杉本瑠璃はゆっくりと構えていたが、田中恵子は焦って、急いで尋ねた。「何？」

杉本瑠璃の唇の笑みはさらに深くなり、一言一言が重爆弾のように、田中恵子の心の中で炸裂した。

「帳簿が……なくなったわ！誰の手にあるか……わかる？」

この言葉は、魔音のように少しずつ田中恵子の耳に届き、田中恵子は慌てふためいて杉本瑠璃を見つめた。

この時の杉本瑠璃は相変わらず美しく魅力的だったが、その骨の髄から漂う寒気は、まるで地獄から這い上がってきた悪魔のように、一声一声と彼女の命を脅かしていた。

贈り物を受け取ったことと、主任昇進の件が暴露されれば、彼女の人生は台無しになる。

田中恵子は心臓の鼓動が加速し、頭の中で急いで対策を考えていた。まだ若く、人生の素晴らしさはこれからだというのに、このように台無しにはできない。

先ほど杉本瑠璃が帳簿がなくなったと言ったということは……その失われた帳簿は、おそらく杉本瑠璃の手にあるということだ！

そうに違いない！

きっとそうだ。

あの石川賢明のせいだ。こんな陰険なことをして帳簿を作り、彼女の収賄の詳細を全て記録するなんて。そうでなければ、今日のような状況に直面することはなかったはずだ。

もしかして……彼女は間違った賭けをしたのか？

いけない、冷静にならなければ。今はまだ杉本瑠璃の言っていることが本当かどうか確認できていない。確認してからでないと。

確認するまでは、どちらの味方もしないほうがいい。一歩間違えれば、取り返しがつかなくなる。

わずか数十秒の間に、田中恵子は一世紀もの長い時を過ごしたかのように感じた。思考を整理し、微笑を浮かべる杉本瑠璃を見上げてから、ゆっくりと口を開いた。

「クラスの生徒たちも皆、あなたが原因ではないと証言しているわ。杉本さん、もう戻っていいわ。」

そして驚愕の表情を浮かべる中川美鳥の方を向き、非常に厳しい口調で言った。「中川さん、あなたは残りなさい。教室での喧嘩、先生に手を出すなんて、本当に学校に通う気がないようね。石川さん、あなたも教室に戻りなさい。」

なぜか、杉本瑠璃のあの言葉を聞いた後、田中恵子は石川静香に対して嫌悪感を抱くようになった。しかし、表情には出さなかった。結局のところ、石川静香の家から多額のお金を受け取っていたのだから。