第30章 1208号室

桐生誠一は興奮して頷いた。「そうなんです。普通は生徒を簡単には受け入れないんですが、毎年一回特別募集があって、特技のある生徒を募集するんです。一番重要なのは、学費が全額免除されることなんです。」

この点は杉本瑠璃も考えていなかった。彼女の印象では、紅葉学園は貴族の子女が通う場所だった。前世で家が破産し、教師に追い詰められて退学させられた後、貴族学校のことを知る余裕なんてなかった。

桐生誠一は杉本瑠璃があまり詳しくないようだと見て、興奮気味に説明を続けた。「今年の特別募集がもうすぐ始まるんです。もし興味があれば、一緒に受けてみませんか?」

「どうして紅葉学園に行きたいの?」

貴族学校での庶民の生徒の立場は、今よりも良くなることはないはずだ。桐生誠一のこの計画は危険で、難しいものだった。

桐生誠一は杉本瑠璃が何を聞きたいのか予想していたようで、恥ずかしがる様子もなかった。

「あそこに入れば、出世する可能性があるからです。僕の成績は普通ですが、普通の成績だからといって成功できないとは思っていません!」

簡単に言えば、桐生誠一は成功したかったのだ。

この点について、杉本瑠璃も同意見だった。

その通り、学業成績がすべてではない。桐生誠一の成績では大学に入るのは少し難しいかもしれないが、紅葉学園に挑戦してみれば、別のチャンスがあるかもしれない。

チャンスは、常に自分の手の中にある。

「いいわ、私も参加する。」

杉本瑠璃はあっさりと同意した。桐生誠一は説得に時間がかかると思っていたのに、杉本瑠璃がこんなに早く同意するとは思わなかった。

おそらく杉本瑠璃がこんなに早く同意したのは、今日の出来事と関係があるのだろう。しかし桐生誠一は、杉本瑠璃が早々に同意した本当の理由を知らなかった。

すぐにその理由が分かることになる。

放課後、杉本瑠璃は急いで帰らず、まず薬草堂に立ち寄った。

まだ薬草堂に着く前から、杉本瑠璃は車椅子に座った男性の後ろ姿を見かけた。誰かが押している車椅子で、角度の関係で男性の横顔をちらりと見ただけだった。

距離が遠くてはっきりとは見えなかったが、杉本瑠璃は奇妙な感覚を覚えた。この男性は並の人物ではないと。