杉本瑠璃は当然北澤隆のことを知らなかったし、会ったこともなかったので、「この方は私のことをご存知なのですか?」と尋ねた。
三島颯真も少し驚いて北澤隆を見つめた。三島悠羽はずっとそこに座ったまま、微笑みを浮かべ、杉本瑠璃を助ける気配はなかった。彼は杉本瑠璃には自分なりの対処法があり、彼の助けなど必要ないことを知っているようだった。
北澤隆は笑いながら言った。「もちろん知っています。先日、吉川先生を訪ねた時、先生は引退したとおっしゃいました。弟子に後を継がせ、今後は表に出ず、診察もしないとのことでした。私がどんなにお願いしても、先生は診察を引き受けてくれませんでした。後で聞いてみると、弟子の医術に刺激を受けて引退を決意したとおっしゃったんです。」
プッ!
杉本瑠璃が十分冷静でなかったら、北澤隆のこの話を聞いて、思わず吹き出していたかもしれない。
師匠よ師匠、これはまた何の茶番なのか?
先日、師匠は閉関すると言っただけで、引退するとは一言も言わなかったのに、いきなり彼女を前面に押し出してきた。医師免許は取得したばかりだが、まだ医学の新人なのに、師匠もよく患者を任せようと思ったものだ。
しかし、人前で師匠の面子を潰すわけにはいかないので、淡々と「師匠が大げさに言っただけです。私にはまだ学ぶべきことが多くあります」と答えた。
曖昧な一言で、再び北澤隆の探りを防いだ。北澤隆は本来、杉本瑠璃の医術がどの程度なのか知りたかったのだが、杉本瑠璃にこう返されては、これ以上追及することもできなかった。
これは北澤隆の好奇心をさらにくすぐり、杉本瑠璃の実力をより知りたくなった。
三島颯真は杉本瑠璃から建設的な答えが聞けると思っていたが、それも叶わず、さらに先ほど三島明から杉本瑠璃が三島悠羽の専属医師だと聞いて、心配になった。
「悠羽くん、明ちゃんの言うことは本当なのか?この若い杉本さんが、お前の専属医師なのか?」
三島悠羽の健康は、三島颯真が特に気にかけていることだった。結局のところ、三島悠羽は長男であり、その品行も手腕も、三島グループを任せるのに十分な信頼があった。
しかし三島悠羽の健康状態は懸念すべきものがあった。三島グループの後継者として、健康な体がなければ、それは明らかに問題だった。