杉本瑠璃は一瞬頭が真っ白になったが、それでも三島悠羽に向かって親指を立てた。「商人は皆ずる賢いと言いますが、私も三島様から学ばなければならないようですね」
そう言うと、三島様の軽い笑い声が聞こえてきた。「私から学ぶなら、授業料が必要ですよ。杉本先生のような気前の良い方なら、私の利益を損なうようなことはしないでしょう?」
これは先ほどの杉本瑠璃の言葉を、三島悠羽が冗談めかして返したもので、その口調には明らかに茶化す意味が込められていた。
杉本瑠璃は軽く微笑んで、明るい声で言った。「まあ?私は得をするのは好きではありませんが、高価なものを手に入れるのは好きです。ちょうど、三島様はとても高価ですから!」
「ハハハ!学んだことを実践できるなんて、商人としての素質がありますね。こんなに親しくなったのだから、これからは私の名前で呼んでください」
杉本瑠璃は一瞬驚いた。朝日執事から聞いた話では、三島悠羽の名前を呼べる人は少なく、師匠や羽田和彦のような人でさえ、「三島様」と呼んでいたのだ。
しかし彼女も率直な性格の持ち主だったので、遠慮することなくすぐに答えた。「はい、悠羽さん。こんなに親しくなったのだから、あなたも私の名前で呼んでください」
三島悠羽は笑いながら首を振った。「私は杉本先生と呼ぶ方が親しみを感じますね」
杉本瑠璃は少し意外に思った。三島悠羽は自分の名前を呼ばせておきながら、彼女への呼び方は変えたくないと言う。本当に変わった人だ。
でも何と呼ばれても構わない、呼び方なんて気にならなければそれでいい。
「お好きなように」
すぐに車は宴会場に到着した。ホテルではなく、Y市の郊外にある個人の大きな別荘だった。杉本瑠璃は、Y市の郊外にこのような古城のような建物があることを全く知らなかった。
だからこそ、ある地位に到達するまでは、世界がどれほど広いのか、世界には別の角度からの景色があることを永遠に知ることはできないのだ。
車を降りる前に、三島悠羽が言った。「彼らの前では、私は障害者です」
この唐突な一言に、杉本瑠璃は言外の意味を理解した。確かに、以前は三島悠羽が車椅子を必要とする障害者だと思っていたが、後になって彼が歩けることを知り、身体的な欠陥がないことがわかった。