「えっと……よく……覚えていないんです。薬を盛られたみたいで記憶がないんです。もし私が何かしてしまったとしても、決して故意ではありません。本当です、約束します!」
杉本瑠璃にとって、三島悠羽は極めて神聖な存在であり、汚してはいけない存在だった。
杉本瑠璃は気づかなかったが、彼女がそこで慌てて説明している間、三島悠羽の眼差しが沈み、目に危険な光が走り、唇の端がさらに上がっていた。ただし、固く結ばれた唇からは笑みは見えなかった。
杉本瑠璃は三島悠羽のその表情を見て、自分が三島悠羽を「汚してしまった」からこんな表情をしているのだと思い込み、心は後悔で一杯だった。
後悔していたのは、訳も分からず初めての経験を失ってしまったことと、同時に、なぜか分からないけれど三島悠羽という美しい花を摘んでしまったことだった!
他の誰かならまだしも、相手が三島悠羽だったなんて。もしこのことで恨まれでもしたら、本当に生きる道がなくなってしまう。
三島悠羽との付き合いは長くなかったが、杉本瑠璃は何となく感じていた。三島悠羽という人物は絶対に笑顔の裏に牙を隠す虎だと。いや、違う。弱い振りをして相手を騙す狐だと。いや、それも違う。三島悠羽は全く弱い振りなどしていない!
彼は狡猾な狐そのもので、しかも化けた狐だった。
さらに、杉本瑠璃は思った。三島悠羽の恨みを買えば、いつどのように死ぬか分からないまま、突然死んでしまうかもしれないと。
そう考えると、杉本瑠璃は思わず三島悠羽が持っているお盆に視線を落とし、目に警戒の色が浮かんだ。昨夜、三島悠羽にあんな許されざる行為をしたのに、彼は親切に朝食を持ってきてくれた。
もしかして……
「あなたを毒殺したいのなら、今朝まで待つ必要はなかったでしょう」三島悠羽の顔はさらに暗くなり、眼差しもより陰鬱になった。明らかに杉本瑠璃の考えを見透かしていた。
杉本瑠璃は急いで表情を取り繕った。三島悠羽の前では、既に自然と表情をコントロールするようになっていた。彼に心の内を読まれないようにするためだ。しかし今朝の出来事は刺激が強すぎて、表情を抑えることを忘れてしまい、おそらく彼女の全ての思いが、この心理学の達人である三島悠羽に見透かされてしまったのだろう!
コホン、コホン!