第209章 一躍千里(その8)

「申し訳ありませんが、当店の寝具は全て売り切れてしまいました」

店員は美しい女性で、声も心地よかった。

杉本瑠璃は眉をしかめた。彼女の運がこんなにも良いのだろうか?こんな大きな家具店で、これほど多くのブランドのベッドが、全て売り切れているなんて!

「他の店から取り寄せることはできませんか?急いでいるんです」杉本瑠璃は三島悠羽に負けるわけにはいかないと思った!

美しい店員は申し訳なさそうに微笑んで言った。「申し訳ありませんが、現在は当店だけでなく、Y市全体で寝具が品薄になっているんです。取り寄せどころか、展示品さえも手に入りません。今日はベッドを買いに来た多くのお客様が購入できず、あなただけではないんです」

杉本瑠璃は目を瞬かせ、少し驚いて「いつからY市のベッドがこんなに品薄になったんですか?」

店員は笑って「今日からですよ。今日から品切れになって、工場で急いで製造を始めたところです」

杉本瑠璃は、三島悠羽と知恵比べをしようと思いついた策が、こんなにも簡単に潰されるとは思ってもみなかった。

仕方がない。ただ、三島悠羽が昨日買ったベッドを壊していないことを願うばかりだ。さもないと、今夜は本当に寝るところがなくなってしまう。

帝国に戻ったとき、杉本瑠璃はまだ少し落ち込んでいた。三島悠羽は杉本瑠璃の元気のない様子を見て、笑いながら彼女の後ろを覗き込んだ。

「あれ?今日は杉本先生、ベッドを買ってこなかったんですか?」

杉本瑠璃は冷ややかに三島悠羽を一瞥し、力なく「買えなかったの。全部売り切れだったわ!」

「へぇ?」三島悠羽は声を上げた。「それは本当に運が悪かったですね」

杉本瑠璃は不機嫌そうに三島悠羽を睨みつけた。「まさか、最近のベッドの品質がこんなに悪いなんて。あなたみたいに、寝るだけで壊してしまう人が多いのね!」

三島悠羽はそれを聞いても気にする様子もなく、狐のように笑いながら意味深に言った。「ベッドの品質とは関係ないでしょう。たぶん、寝るときが激しすぎたんでしょうね」

ぷっ!

杉本瑠璃はむせそうになった。幸い水を飲んでいなかったから、吹き出すことはなかった。

寝るときが激しすぎる?

この言い方は...本当に想像をかき立てるわね!