第236章 三島悠羽の心事(10)

杉本瑠璃が顔を上げると、目に驚きの色が走り、三島悠羽を見つめた。黒い瞳で三島悠羽の両目をじっと見つめ、何かを読み取ろうとするかのようだった。

しばらくして、杉本瑠璃の心臓が早鐘を打ち始め、もう諦めようかと思った時、突然三島悠羽が口を開いた。

「よく考えたのか?」

あと一秒遅ければ、杉本瑠璃は冗談だったと言うつもりだった。三島悠羽にそんなに真剣に受け止めないでほしいと。

しかし、三島悠羽にそんなに真剣に問われ、そんな真摯な三島悠羽の前で、口に出そうとした言葉は「うん、よく考えました」に変わってしまった。

「後悔しないか?」三島悠羽がもう一度尋ねた。黒い瞳は澄み切っていて、うっかりすると、その中に引き込まれそうだった。

杉本瑠璃は深く息を吸い込み、何か言おうとした時、三島悠羽は視線を外し、また少し憂鬱そうな目つきで、彼特有の優しい声で言った。「もういい。これは俺の問題だ。お前を巻き込むべきじゃなかった」

「もちろん後悔なんてしません!この提案は私がしたんです。よく考えてから言ったんです。それに前にも私があなたに迷惑をかけましたし、考えてみれば、私はもうとっくに深く関わっているんです。心配しないでください!」

杉本瑠璃は義理堅い人間で、三島悠羽が今困っているのに、前にあれほど助けてくれたのだから、恩返しするのも悪くないと思った。

それに三島悠羽はいい人だし、将来のパートナーを選ぶとしたら、三島悠羽のような人を知った後では、他の人を選ぶのは難しいだろうと思った。

つまり、三島悠羽より自分の目に適う男性を見つけるのは難しいということだ。

彼女は若い女の子とは違う。どう言っても一度人生を経験した人間で、精神的な成熟度も感情に対する考え方も比較的大人だった。

実は、もっと重要なのは、自分が三島悠羽に対して嫉妬を感じることに気づいたことだ。つまり、心の中で三島悠羽のことを好きなのだろう。

そうであれば、もう躊躇う必要はない。躊躇うことは杉本瑠璃らしくない。決めたことは後悔しない!

「結婚は一生の事だ。単に俺を助けたいという理由だけで決めないでほしい」

これは杉本瑠璃が三島悠羽を知って以来、初めて見る彼のこんなに真剣な表情で、いつもの意味ありげな笑みは消えていた。

そんな三島悠羽に、不思議な感覚を覚えた。三島悠羽の誠実さを感じたのだ。