そのとき、島田凜は白川華怜の服の端を軽く引っ張り、目配せをした。
山田は女子からの物を一切受け取らない人だった。
なのに今は差し出された朝食を受け取り、「ありがとう、ありがとう。田中美依、もう授業が始まるから先に行って」と言った。
田中美依の渋面が再び笑顔に変わり、「じゃあ、夜にバスケの試合を見に行くね」と言った。
今日は機嫌がいいのか、田中美依は鼻歌を歌いながら1年5組から出て行った。
彼女が通り過ぎる場所では、男女問わず思わず首を縮めた。
「転校生、あなたは新しく来たばかりだから説明してあげるわ」前の席の女子が振り返り、ほっと息をついて白川華怜に言った。「さっきの子は2年生の田中美依よ。でもそう言っても分からないわよね。うちの学校のイケメン、山田のバカ以外にも田中駆って人がいるの。田中美依は田中駆の妹で、田中駆は3年8組、特進クラスなの。分かる?彼女といつも一緒にいるのは、田中駆や中村優香みたいな人たちよ」
白川華怜:「……ありがとう」
マジうざい、殺したい。
「とにかく特進クラスの人たちとは、私たち一般人は関わらない方がいいわ。卵が石に当たるようなものだから」女子は言い終わると、島田凜と山田の方を見て、「そうでしょう?お二人とも」
「一番重要なのは、田中駆と中村優香は私たちの学年で最も注目される北区の状元候補だってことよ」島田凜は自分の席に座り、考えてから静かに付け加えた。「できるだけ彼らを怒らせないようにしましょう」
「それはそうだけど」山田は不満そうに、「なんで俺みたいな明るく朗らかな19歳の純情男子高校生をバカって呼ぶんだよ?」
誰も相手にしなかった。
「……」山田は隣の席の肩を抱き、「学神、どう思う?」
畑野景明は顔を上げ、「静かに」という目つきを向けた。
白川華怜は頬杖をつき、少し怠そうに英語の教科書を開いた。
山田は鼻をこすりながら、携帯を取り出して彼女と友達登録をした。
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今日は金曜日で、夜の下校時間。
島田凜と白川華怜は一緒に校門を出て、イヤホンで単語を聞きながら通りの端にある花屋まで歩いた。
花を売る中年女性は熱心にお客さんに花束を包んでいたが、島田凜を見ると優しく微笑んで、「あなたの花はテーブルの上に置いておいたわよ」と言った。