秘書長は中村綾香より多く来ていたが、今回中村綾香は特別に彼を連れてきた。
彼は最初、白川華怜から本を受け取るのは一言で済むことだと思っていた。
その本の価値をはるかに超える金額を提示したことはさておき、中村家の名声だけでも、なぜ白川華怜がほとんど考えもせずに断ったのか理解できなかった。
「もちろん、私は絶対に根に持つタイプよ。あなたが今ここで呼吸できているのは」白川華怜は足を止め、イヤホンを投げ上げながら彼を横目で見て、「私の我慢の限界なの。だから、お爺さんの前では上手く演技した方がいいわよ」
秘書長は上には媚び、下には高圧的な態度を取るのが常だった。中村修の重視があってこそ、安藤家に目を向けていたのだ。
しかし、彼が眼中になかった白川華怜が全く面子を立ててくれないとは思いもよらなかった。