加藤正則は和紙の束を手に取り、長年大切にしていた狼毫の筆も用意して、白川華怜に無理やり渡した。
「加藤先生、私の字は……」白川華怜は紙の束を抱えながら、狼毫の筆も渡された。
彼女はこの筆でなくても大丈夫だと言おうとした。
しかし加藤正則は彼女の言葉を全く聞こうとせず、「まずは家に帰って、しっかり練習するんだ。最高の状態で臨めるように。学校の休みは私が手配しておく。さあ、私はあなたの字を楽しみにしているから、階下まで見送りはしないよ」
彼は白川華怜を部屋から送り出し、和紙と狼毫の筆を返されないように、ドアに鍵をかけた。
白川華怜はカバンと紙、筆を持ってドアの外に立ち、しばらくドアを見つめてから階下へ向かった。
階下では。
加藤京弥がソファに座り、誰かと小声で電話をしながら、階段を降りてくる白川華怜に目をやったが、すぐに視線を逸らした。
彼はこのような名声を求める人間に少しの好感も持っていなかった。
白川華怜が去った後、彼は電話を切り、階上の加藤正則を訪ねた。
「お爺さん、説明してくれませんか?」彼は書斎の外に立ち、中には入らなかった。「九級も持っていない人を、冗談じゃないでしょう?」
加藤正則はドア口に立ち、加藤京弥を見つめた。「資格だけで人を判断してはいけない。まずは彼女の字を見てみなさい……」
「でも私たちは資格を重視しているんです」加藤京弥は加藤正則の言葉を遮った。「以前、師妹が九歳で六級を取得したから弟子にしたじゃないですか?彼女はよくて、優香はダメなんですか?」
この件について加藤正則は反論できなかった。
確かにそうだった。今は資格の時代で、どこへ行っても何の資格を持ち、何点取ったかが問われる。資格があれば天下どこへでも行ける。
白川華怜に出会うまでは、加藤正則もそう考えていた。
しかし彼が加藤京弥と違うのは、資格が必要なかった時代を経験していることだった。
「もう優香のことは言わなくていい」加藤正則は軽く首を振った。「私は既に白川さんを登録した。数日後、彼女も君たちと一緒に江渡へ行って書道賞に参加する」
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加藤家から程近い道路で、木村浩と木村翼はまだ白川華怜を待っていた。
明石真治はおらず、運転席には木村浩が座っていた。彼は白川華怜が紙の束を抱えているのを見て、少し驚いた様子で「どうしてそんなに和紙を?」