白川華怜はあまりにもきっぱりと立ち去り、事務局長と谷部部長はしばらく我に返れなかった。
特に事務局長は。
中村優香が動画を撮らなかったことを、中村修はまだ知らない。
事務局長は今回、白川華怜が妥協してくれると思っていた。陽城市で初めて開催される書道協会は重要な意味を持つ。その意味を理解している者なら、誰もこの機会を逃すはずがないと。
しかし白川華怜は意外にも強気で、去ると言って本当に去った。
事務局長は白川華怜の後ろ姿を見つめ、その瞳の奥は測り知れなかった。
中村優香から動画撮影権を奪い、陽城書道協会の設立式典の第一陣に加わることができた白川華怜は、もはや事務局長の心の中で安藤家のような取るに足らない存在ではなくなっていた。
傍らで、谷部部長はようやく天を仰ぐ視線を戻し、何事もなかったかのように事務局長にペンを差し出し、笑みを浮かべて「どうぞ」と言った。