白川華怜はあまりにもきっぱりと立ち去り、事務局長と谷部部長はしばらく我に返れなかった。
特に事務局長は。
中村優香が動画を撮らなかったことを、中村修はまだ知らない。
事務局長は今回、白川華怜が妥協してくれると思っていた。陽城市で初めて開催される書道協会は重要な意味を持つ。その意味を理解している者なら、誰もこの機会を逃すはずがないと。
しかし白川華怜は意外にも強気で、去ると言って本当に去った。
事務局長は白川華怜の後ろ姿を見つめ、その瞳の奥は測り知れなかった。
中村優香から動画撮影権を奪い、陽城書道協会の設立式典の第一陣に加わることができた白川華怜は、もはや事務局長の心の中で安藤家のような取るに足らない存在ではなくなっていた。
傍らで、谷部部長はようやく天を仰ぐ視線を戻し、何事もなかったかのように事務局長にペンを差し出し、笑みを浮かべて「どうぞ」と言った。
彼は白川華怜の退場に特に感想はなかった。ただ一つの名前を消し去っただけのことだ。
彼が自ら押さえつけた無数の波の一つに過ぎない。
谷部部長にとって、今は中村家とこの事務局長こそが最も重要だった。
ここまで這い上がるのに苦労したのだから、上の人の心をしっかり掴まなければならない……
公平さ?
この世界に公平などあるはずがない。
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明石真治の車は近くに停まっていた。
今日は人が多く目も多いため、彼は白川華怜と木村翼と一緒に入らなかったが、隣の通りに車を停めていた。顔を上げると、通りの端から白川華怜が現れるのが見えた。
白川華怜は今日、上着も中の服も同じ系統の色で、どちらも空色に近かった。
とても目立つような青ではなく、雨上がりの雲の隙間から覗く澄んだ青のような、純粋で優しい色だった。ただし、白川華怜の冷淡な表情とは相容れないものだった。
理由は分からないが、明石真治は白川華怜の機嫌が良くないように感じた。
明石真治は一瞬の後、急いで車から降りた。
彼は車のドアを開け、「白川さん、もうお戻りですか?」と尋ねた。
明石真治は書道協会のことはよく分からなかったが、今日白川華怜が設立式典に参加することは知っていた。
こういった式典には明石真治も参加したことがあり、たいてい午前中いっぱいかかる。早退しても2時間はかかるはずなのに、白川華怜の帰りは早すぎた。