相手は返信しなかった。
午後九時二十分。
加藤正則はついに我慢できなくなり、携帯を取り出して白川華怜に電話をかけた。
**
図書館。
木村浩が到着した時、木村翼が一人で席に座って、むっつりと本をめくっていた。
彼はゆっくりと手を伸ばし、木村翼の机を軽くノックした。
木村翼は顔を上げ、無表情に近い表情で言った:「トイレ。」
木村浩は手を引っ込め、人を見る時はいつも何気ない冷たさがあった。
白川華怜はトイレに行く時、携帯を机の上に置いていった。その携帯が光った。
木村浩は一目で加藤先生からの電話だと分かった。陽城書道協会の件は彼が手配したものだ。加藤正則が誰なのか、木村浩は知っていた。
白川華怜は今日参加するはずだった書道協会に行かなかった……
木村浩は電話をちらりと見て、すぐに切った。
「どうしてここに?」白川華怜は手を洗い終わり、ペーパータオルでゆっくりと指を拭きながら、声を落として言った。
木村浩は何も言わず、冷ややかな目で木村翼を見た。
木村翼は怒りながら彼のために席を空けた。
木村浩は座り、片手を机に軽く置き、さらりと言った:「研究所の連中に怒らされてな。」
陽城市の山の麓。
CRFS暗黒物質研究所。
山田文雄は粒子衝突を観察し、機械を使って特殊原子の崩壊生成物を探していた時、突然くしゃみをした。彼は呟いた:「まさか誰かが私のことを考えているのかな……」
**
LINEの返信もなく、電話も出ない。
加藤正則は眉をひそめた。
九時二十五分。
谷部部長は加藤正則を急かす勇気がなく、思わず中村修に助けを求めるように目を向けた。
中村修は二歩前に出て、笑いながら言った:「加藤先生、中で待ちましょう。吉時が近づいています。」
「ああ。」加藤正則は携帯を持ったまま、眉間の皺は解けなかった。
敷居を越えると、受付の女性が署名簿を持って、加藤正則と文化観光局長に差し出した。
「谷部部長、これからも書道協会をよろしくお願いします。」中村修は谷部部長に笑顔で言った。
陽城書道協会は、北区と江渡を繋ぐ架け橋だった。
谷部部長は中村家に取り入りたがり、中村修も谷部部長と良好な関係を築きたがっていた。互いに利益があった。