140 渡辺文寺のチャンス、白川華怜は藤野院長と約束する

「何?」渡辺文寺は驚いて白川華怜が差し出したものを受け取った。

対立があったため、斉藤笹美は渡辺文寺にイベントチケットを渡さなかった。

彼はイベントチケットを見たことがなかった。

渡辺文寺は興味深そうに下を見た。幅5センチ、長さ十数センチ、全体が薄い青色で、表面には江渡科学館の写真が印刷されていた。

裏返すと、数行の文字が書かれていた——

【量子と情報時代

講演者:木場富山

日時:1月17日午後2時

場所:江渡科学館地下2階講堂】

量子と情報時代……

木場富山……

渡辺文寺は見つめているうちに、突然それが何なのか気づいた。青いチケットを持つ手が微かに震え、指先が少し白くなっていた。

木場院長の講演会は、チケットが入手困難と言っても過言ではなく、会場にいる誰もが業界の大物だろう。

渡辺泉と渡辺瑞恵も苦労したが、このチケットはお金だけでは手に入らないものだった。

そうでなければ、渡辺瑞恵と渡辺お婆さんが交代で渡辺文寺に謝罪するよう説得することもなかっただろう。

それなのに?

白川華怜がこうして一枚くれたのだ?

「君は...どこで手に入れたの?」彼は白川華怜を見上げ、非常に驚いていた。

普段は冷静な彼も、この時は頭が混乱して、どこから話を始めればいいのか分からなかった。

「人からもらったの」白川華怜は左耳にBluetoothイヤホンを付けたまま、外は風が強かったので手をコートのポケットに入れ、ゆっくりと言った。「木村琴理が、あなたが木場院長の講演に行きたがっていると言ってたから」

渡辺文寺は思わず「木村琴理?」と聞き返した。

「ああ」白川華怜は早口で言いすぎて言い間違えた。彼女は少し顎を上げて「...木村翼のことよ。会ったことあるでしょう」

渡辺文寺は木村翼を知っていた。あの日、一緒に博物館に行ったことがあった。

ただ...

彼は無気力そうな表情の白川華怜を見て、こんなに美しい人が、どうやって人にニックネームをつけ、しかもまじめな顔でそのニックネームで呼ぶのか想像もつかなかった。

「私、行くわ」白川華怜は渡辺文寺に軽く頷いた。

ここには駐車スペースがなく、木村浩がまだ一時駐車場で待っているので、遅くなるわけにはいかなかった。

「君は...」