白川華怜はヘッドフォンをつけて少し聞いてから、「とてもいいわね」と言った。
宮山小町は、この一節を弾くためだけに藤野院長から習ったのだった。彼女には技巧はないが、感情だけで弾いていた。しかし、お箏は技巧も感情も大切で、初心者にとって、宮山小町は感情表現が的確で、熟練度も非常に高かった。
もちろん、後ろにいた畑野景明は白川華怜を横目で見た。
もし彼や空沢康利だったら、白川華怜はきっと「ふん」と一言で済ませただろう。
「本当?」宮山小町は白川華怜に自分の感想を話した。「白井沙耶香の演奏はとても素晴らしいけど、彼女の『賭け飲み』は柔らかすぎるわ……」
だから彼女は突然思いついて藤野院長に習うことにしたのだ。
あの戦場の雰囲気は、実際に経験した人でなければ表現できないものだった。
『賭け飲み』は大ヒットし、白井沙耶香のお箏の演奏は前例のない盛り上がりを見せ、新曲をリリースしたばかりの白鳥春姫にも迫る勢いだった。
白川華怜は白井沙耶香のお箏を聴いたことがなかったので、評価はしなかった。
今日の第一限目は奥田幸香の授業だった。
彼女は笑顔で皆に挨拶した。「今日は皆さん早く来てくれて、とてもいいですね。遅刻した人もいませんし……」
そう言いながら、白川華怜の後ろの空席に目が留まった時、表情が少し固くなった。
「あと150日で、私は皆さんを試験会場に送り出すことになります。皆さんはこれから社会に出ていくのです」奥田幸香は文化委員にカウントダウンの準備をさせ、机に手をついて、優しい目で語りかけた。「皆さんは良い子たちだと知っています。でも新学期の始めに、教師として、皆さんには冷静さを保ってほしいと思います。いつどこにいても、まず自分の安全を確保することが大切です」
全員が素直に頷いた。
奥田幸香は白川華怜を一瞥すると、白川華怜が何も言わず頷きもせず、ただじっと彼女を見つめているのに気付いた。
奥田幸香:「……??」
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藤野邸。
白井沙耶香は二階のベランダに立ち、短時間ライブ配信を始めた。
【沙耶香お姉さま、これって……陽城市にいるんですか?】
【まさか、ネットで噂されているように、藤野院長が本当にあなたを探しに来たんですか】
「今到着したばかりで、一日休むつもりです」白井沙耶香は礼儀正しく答えた。