イヤホンの向こう側で、江渡。
中年の男が携帯をスピーカーモードにし、渡辺浩平は鳥かごの中の鳥をあやしながら、電話の向こうの報告を聞き終わると、意味深な口調で言った。「残念だな、チャールズさんは、失望することになるだろう」
「失望するのはチャールズさんだけじゃありませんよ」中年の男は電話を切った。
「そうだな」渡辺浩平は微笑んで、「私の敬愛する父は、自分の誕生日パーティーで次期後継者を発表するつもりだ。明日はどんな考えを持っているのかな」
渡辺お爺さんはあと何年生きられるか分からないが、渡辺浩平と渡辺翔平をスキップして、渡辺颯だけを期待している。
中年の男は頭を下げて、「二少爺、息子を呼び戻しましたが…」
「心配するな」渡辺浩平は鳥かごを下ろし、彼に一瞥をくれた。「お前の取り分は確保してある。明日は製品部に移動だ」
彼は鳥をあやしながら、長い廊下を戻っていった。
人が去った後、中年の男の側にいた人が恐る恐る尋ねた。「鷹山部長、これでは三少爺の怒りを買うことになりませんか…」
誰もが渡辺颯が今勢いに乗っていることを知っていた。
鷹山稔がバイクのことがなければ、渡辺颯に会う機会すらなかったかもしれない。
「三少爺だって?」中年の男は目を細めた。「鷹山稔は八年間も彼の尻について回ったが、レーサーという肩書き以外に何を得られた?私は渡辺家で何年も昇進どころか降格されてきた。彼を怒らせなくても、あの手の人間は私たちなど眼中にないさ。それなら一か八かだ」
これは八年待った機会だった。
「それに…」中年の男はここまで言って、顔に笑みを浮かべた。「今日が過ぎれば…三少爺も渡辺家では一歩引かなければならなくなる。この渡辺家が二少爺のものになるのか、三少爺のものになるのか、まだ分からないからな」
彼は自分の未来の栄華を見ているかのようだった。
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7:27。
一階。
木村浩も下りてきて、大スクリーンを見つめていた。この角度からは後でスクリーンの映像を追うしかない。
彼の隣で、松本章文はまだ夢を見ているような気分で、渡辺颯に躊躇いながら尋ねた。「彼女は本当に大丈夫なの?」
渡辺颯はチャールズの様子を窺いながら、首を振った。「分からない。チャールズはもう知ってしまった」