172 狂乱のレンレン

「レベルは高くないよ、みんなアマチュアだから」松本章文は静かに言った。そのため、誰もここで問題が起きるとは思っていなかった。「9人いるんだ。チャールズは9という数字が好きなんだ。完走すればいい」

渡辺颯は腕のいいライダーを3人見つけた。その中の1人は彼が最も信頼している鷹山くんで、他の2人は松本章文が人を付けて監視していた。渡辺颯が最も信頼している鷹山くん以外は。

チャールズと渡辺颯は兄弟のように親しかったが、ビジネスを成立させるのは簡単なことではなかった。そうでなければ、渡辺颯がこれほど大きな代価を払ってレース場を作ることもなかっただろう。

チャールズの接待がどれほど重要かは言うまでもない。渡辺颯も緊張していた。これだけの費用をかけてグレードを上げたのに、最後の最後で1人足りなくなってしまった。

しかも重要な「9」という数字に関わることで。

白川華怜は携帯のアプリを閉じ、ゆっくりと手首を動かしながら言った。「私でよければ」

松本章文は代わりの人を見つけて完走させる可能性を考えていたところだった。白川華怜の言葉を聞いて、「何?」

彼は白川華怜を上から下まで見つめた。木村浩と比べると、白川華怜は控えめな印象だった。ゆったりとした白いシャツを着た彼女には、どこか神秘的なアーティストの雰囲気があった。

そのため、白川華怜がそう言った時、松本章文は彼女をバイクと結びつけて考えることすらできなかった。

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室内。

木村浩は今日カジュアルな白いジャケットを着ていて、周りの冷たい雰囲気がより際立っていた。彼は白川華怜だけを見つめ、唇を引き締めて言った。「だめだ」

渡辺颯も白川華怜の言葉に驚いた。「華怜ちゃん?これはバイクだよ!」

今夜のレースに参加できる人は少なかった。だからこそ渡辺颯はこんなに追い込まれていた。

彼はすでに完走できない代役を立てることを考えていた。

プロのレースではないとはいえ、渡辺颯が今日用意したバイクは1000ccの排気量があった。ただし、最高速度はプロのレースバイクの1000には及ばない。

それでも危険だ。

木村浩はもちろん、渡辺颯も白川華怜を参加させたくなかった。それに、白川華怜の様子からは、バイクに乗れるようには見えなかった。

白川華怜は頷いた。「わかってます。私、乗れますから」