大永もいた。
安藤宗次はラジオを聴くのが好きで、家にはテレビがなかった。
隣で、渡辺颯は素早く反応した。「白川華怜ちゃん、僕が...」
言い終わる前に、隣の木村浩が車のキーを持って颯然と立っているのが目に入った。相変わらずの冷淡な表情で彼を見つめていた。
渡辺颯はその淡い瞳から漏れ出る殺気を感じ取った。
彼は強引に話を変えた。「木村さんはテレビを選ぶのが上手なんです。」
木村浩は彼を連れて行かなかった。渡辺颯は一人寂しく、その場に立ち尽くし、黒い車が遠ざかるのを見ながら、顎に手を当てて「日曜日は何のテレビを見るんだろう?」
エンターテイメントについてよく知らない彼は、携帯を開いて松本章文に尋ねた。
江渡にいる松本章文はすぐに電話を返してきた。少し疲れた様子の声で「颯、どんなテレビかは分からないけど、白鳥春姫がバラエティ番組に出るらしいよ。」
渡辺颯は適当に聞いただけだった。タピオカ店に目が留まり、長い脚で道を渡りながら、無関心な口調で「そっちで何かあったの?」
「ちょっとね」松本章文は眉間を押さえながら、静かに言った。「江渡大学の新人交流会で突如現れた人物がいて、本田直哉と並ぶ天才らしい。でも内部情報がまだ掴めていない。本田直哉もその人物目当てで来るらしいんだ。」
タピオカ店は混んでいた。渡辺颯は周りを見回してから、群衆の中に並び、真剣な表情で「誰?」と聞いた。
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その時。
スターライト、人気芸能人明智陽明の事務所。
明智陽明は仕事を終えたばかりだが、事務所のスタッフはまだ誰も帰っていなかった。
アシスタントの一人が自分の机を片付け、スマートフォンを手に取ると、プッシュ通知を見た。「『友よ來たれ』の放送日が決まったよ。江渡テレビとネット同時配信で、白鳥春姫のゲストは梅田行長?」
思わず口に出してしまった。
後ろにいた高級オーダーメイドの服を着た明智陽明の顔から、笑顔が一瞬で消えた。
マネージャーはここ数日の番組の話題性を知っていて、感慨深げに「江渡音楽学院の人だよね。江渡の地上波テレビに、あの作曲家も。私たちは当時...」
元々白鳥春姫と一緒に番組に出る予定だったのは明智陽明だった。