山城ホテル。
北区音楽学院の校長は手に茶箱を持って、恭しく5615号室のドアを押した。
藤野信勝は静かな環境を好むため、彼は一人で訪問し、音楽協会や学校の大勢の人々を連れてこなかった。
部屋は廊下の突き当たりにあり、足元には柔らかいカーペットが敷かれていた。周りに誰もいなくても、北区音楽学院の校長は非常に敬意を持った態度を保っていた。
ドアはすぐに内側から開いた。
人を見て、北区音楽学院の校長は丁寧に挨拶した。「間宮助手。」
「馬場校長。」間宮さんは軽く頷いて、馬場校長を通すために横に寄った。
藤野院長が予約した部屋も小さなスイートルームで、来客の便宜を図るためだった。彼は白川華怜との会話を終えて、部屋に戻ってからしばらく、小さなリビングと寝室を見回ったが、ウェルカムフルーツとティーバッグしかなく、お茶は見当たらなかった。
彼はサービスの電話を押して、ホテルのスタッフにお茶を持ってくるよう頼んだ。
「お茶ですか?」ホテルのスタッフも意外そうだったが、お客様のご要望なので必ず対応すると答えた。「かしこまりました。少々お待ちください。」
馬場校長は彼が電話を切るのを見て、ようやく贈り物の箱を置き、恭しく言った。「藤野お爺さん、こちらがご要望のチケットです。VIP席の最前列になります。」
彼はチケットを差し出した。
心の中で驚いた。藤野信勝はこのチケットを誰のために用意しているのだろうか?
長年の付き合いで、初めて彼がチケットを要求したのだ。
「ご面倒をおかけしました。」藤野信勝はチケットを受け取った。
「毎年北区でボランティア公演をしていただけるのは、北区の幸せです」と馬場校長は真剣に言った。「このチケット以外に、他にご要望はございますか?」
藤野信勝は藤野家が好きではなかったが、故郷への愛は変わらなかった。
毎年一度は必ず訪れており、前回は去年の十月だった。
「もうありません。皆さん緊張する必要はありません。彼女が来るかどうかもまだわかりませんから。」藤野院長は気が重そうだった。白川華怜はまだ来るかどうかわからないのだ。
彼は少し憂鬱そうだった。
馬場校長は目を伏せ、心の中で驚いた。この「彼女」とは誰なのだろう?
藤野院長が「彼女」が来るかどうかを心配しているなんて。