213 学長、横断幕が足りないよ(2)

顔ははっきりと見えなかったが、光と影の中で、その人物から漂う威圧感は異常なほど強く、これほどの距離があっても近寄りがたく、冒涜できない存在に感じられた。

後ろからの視線を感じたのか、その人物がこちらを向いた。

松木皆斗と白井沙耶香は世間を知る者だった。

二人は江渡で山本家の方々に会ったことがあり、山本お爺さんにも会ったことがある。そして白井沙耶香は藤野院長にも会ったことがある。

しかし、それでもなお、車の流れを隔てて感じる男の威圧感は尋常ではなく、少しも穏やかではなかった。まるで狼に狙われた獲物のように、背筋が凍るような感覚だった。

ここは大きな交差点で、赤信号の時間が長く、ようやく青信号に変わった。

運転手が車を曲がらせると、松木皆斗と白井沙耶香の背筋の凍る感覚がようやく消えた。