田中局長の側にいた間宮さんは彼を見ていなかったが、黒い車が走り去る時になってようやく藤野院長の方を振り向いた。「白川さんの側にいた方をご存知ですか?」
彼は藤野院長が今回誰のために来たのかを知っていた。今回、藤野院長は何か収穫があったようで、機嫌が良さそうだった。
「会ったことはないが……」藤野院長は木村浩が車で去っていく姿を見つめながら、思案げに言った。「木村という姓だ」
木村は、江渡市では多い姓だった。
ただ、この木村が彼らの知っているあの木村なのかどうかは分からなかった。
午後4時。
白川華怜は清水通りに到着した。
木村浩は彼女と一緒に帰り、田中局長と安藤宗次は今日釣りに行ってまだ帰っていなかった。木村翼も彼らの後ろにいた。
白川華怜はスーツケースを自分の部屋に置くと、小部屋のドアを開けた。
彼女が安藤宗次のために用意した寿仙公はまだ磨かれていなかった。
木村浩は中庭を一周してから、彼女と一緒に小部屋に入り、作業台の上に置かれた磨かれていない翡翠を一目見た。
彼が受け取ったものと材質がとてもよく似ていた。
「これは……」木村浩は目を伏せた。
白川華怜は小さな椅子を引き寄せて座り、機械の電源を入れて磨き始めた。「おじいちゃんへの寿仙公よ」そう言いながら、手にした寿仙公をゆっくりと持ち上げ、木村浩に細部を見せた。「進歩したと思う?」
本田徳厚の愛弟子として、彼女は当時、琴棋書画のすべてにおいて非常に優れていた。
寿仙公の絵は上手く描けたが、彫刻はそれほど生き生きとしていなかった。
しかし、すでに玉のキリンを一体彫刻した経験があったため、技術もかなり上達し、線が流麗で、まだ磨かれていないにもかかわらず、黄色い翡翠に彫られた仙桃は画竜点睛のようだった。
プロには及ばないものの、アマチュアの作品としては驚くべき出来栄えだった。
「いいえ」木村坊ちゃまは辛辣に評価した。「私のより綺麗じゃない」
白川華怜はこの翡翠で彼を殴りたくなった。
田中局長はすぐに戻ってきた。
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6月23日。
今日は全国で大学入試の成績が発表される日だった。
白川華怜は朝早く起きると、15組のクラスLINEグループに「999+」のメッセージが届いているのを見た。
15組の生徒たちがこんなに早く起きるのは珍しかった。