「妹が知り合いなんだ」渡辺文寺は木村浩という人物が並々ならぬ存在だと直感したが、相手が誰なのかまでは分からず、話題を変えた。「戻ろう。もう少し遅くなると斉藤俊介が何か言い出すぞ」
数学モデリングは3人1組で、彼ら3人はクラスの優秀な生徒たちで、1つのグループを組んでいた。
斉藤俊介の名前を聞いて、田中宏司は眉をひそめた。
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夕方。
海山マンション。
渡辺颯は車のキーを警備員に投げ渡し、白川華怜の住む棟の下に立って、高橋唯と電話をしていた。
「もう言ったでしょう。彼女は毎日図書館にいるんだから、焦らないで」渡辺颯は上の階を見上げながら、ゆっくりとした口調で言った。
電話の向こうで、高橋唯は彼を罵った。「私が焦っているんじゃないわ。あなたが焦っているのよ」
「……後で彼女に聞いてみる」渡辺颯は何かを思い出したように言った。「それと、ななが8月が誕生日だって言ってたから、準備しておいて」