「彼女じゃない。佳穂は彼女ほど音感がよくない」と藤野院長は答えた。
このような音感を持ちながら音楽を学ばないのは、本当に惜しいことだ。
江渡大学との人材争奪戦になる可能性はどのくらいあるだろうか?
藤野院長は心の中でこのことを考えていた。
傍らで、録音技師は驚いた。柳井佳穂でないなら、この女性は誰なのか?
彼はカメラを通して、白川華怜が弦に手を置き、少し顔を上げて隣の男性と話しているのを見ていた。
男性は真っ白なシャツを着ていて、視線を感じたのか、淡々とカメラの方を見た。録音技師はその淡い瞳と目が合うと、すぐに目を伏せた。
藤野院長は全ての録音を聞き終えると、「これで大丈夫でしょう。鈴村先生、お疲れ様でした」と言った。
録音技師はヘッドホンをつけたまま、最高級の録音スタジオで白川華怜と藤野院長のコラボレーションを聴くことができ、この耳には正に饗宴だった。