「ああ」渡辺颯は立ち上がり、ポケットからタバコを取り出して咥えた。「まず彼女を連れて帰る。家で待っている人がいるから」
「もう行っていいの?」白川華怜は顔を上げた。
羽田彦名は彼女の一言で心臓が止まりそうになった。「もちろんです、白川くん。いつでもお帰りいただけます」
乱闘の一方を拘留せず、もう一方を強制的に拘束するのは不合理だった。
彼は白川華怜がもう一言でも言えば、自分の地位が危うくなるのではないかと本当に恐れていた。
幸い白川華怜は余計なことは言わず、ただ立ち上がって「本が二冊あるんだけど」と言った。
「本ですか」羽田彦名は急いでオフィスのドアを開け、ドアの外に立っている小山晶子を見て「白川くんの本はどこですか?」と尋ねた。
彼の「白川くん」という呼び方はとても丁寧だった。