藤野院長はノートを横のテーブルに置くと、突然何かを思い出したように「江渡音楽大学を撮影してみない?」と尋ねた。
「江渡音楽大学……」宮山小町の手が止まった。先ほどエレベーターを出た時にあの二枚の絵を見て、特別な考えが浮かんでいた。
江渡音楽大学は歴史ある由緒正しい学校だった。
二人が話している。
傍らで現場唯一の子供に牛乳を渡そうとしていた間宮さんの手が震えた。白川華怜についてはまだ理解できた。当時彼女の身分を察していたからだ。
しかし——
藤野信勝を「藤野お爺さん」と呼んだこの女の子は誰なのか?
彼は無意識に手の中の牛乳を握りしめ、宮山小町の後ろ姿を見つめた。
宮山小町は新しい動画の可能性を考えていたが、振り向くと間宮さんと木村翼が牛乳パックの上部と下部をそれぞれ握っているのが目に入った。
彼女は驚いた。結局渡すのか渡さないのか?
間宮さんは宮山小町の視線に気づき、自分がまだ牛乳を持っていることに気づくと、慌てて手を離した。「はい、お子さん、どうぞ」
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白川華怜と白鳥春姫もしばらく会っていなかった。録音を終えると、みんなで江渡音楽大学の近くのプライベート料理店で昼食を取った。
白鳥春姫は今では街を歩くだけで人に認識されるようになり、以前ほど自由に行動できなくなっていた。
順子さんはこの数人の小さな集まりを邪魔せず、外で白鳥春姫が食事を終えるのを待っていた。
彼らが出てくると、順子さんは白川華怜たちに挨拶をしてから、車で白鳥春姫をホテルまで送った。
白鳥春姫は夜にパーティーに出席する予定で、スケジュールがタイトだった。
「さっき会社で話をまとめてきたわ」運転席に座った順子さんは白鳥春姫に最近のスケジュールを説明した。「これらの曲は『賭け飲み』アルバムに収録され、音楽賞にエントリーすることになったわ」
白鳥春姫は今年、ドラマと音楽の両方で花開いており、会社は当然このような注目度を逃すわけにはいかなかった。
白鳥春姫はマスクと帽子を外し、車に置いてあった台本を開きながら、顔を上げて言った。「これらの曲は全て単独でリリースされたものよ」
曲数もようやく要件を満たす程度だった。