258 大物の動き

当初、望月啓二が雪山から戻れなかった時、藤川家は理解を示し、望月星美を望月綾瀬の姓を名乗らせ、望月家の家系に入れることを許可した。

望月星美も確かに望月家寄りで、論理的な思考の持ち主だった。

「彼女は書道を習っていたの?」望月家はこういったことにあまり関心がなく、鏑木執事も中村優香のことを詳しく尋ねたことはなかった。望月綾瀬は藤川咲夫の話を笑顔で聞いていたが、しばらくして本題を切り出した。「いつか戻ってきたら、時間を作って安藤秀秋たちに会ってみない?」

安藤秀秋もそれまでは絵画を学んでいて、藤川咲夫と共通の話題があった。

「ああ、分かった」藤川咲夫は微笑んだ。

「あなたの家族は優香のことを気に入ってるみたいね?」望月綾瀬は彼の機嫌が良さそうなのを感じ取った。

「そうでもないよ。家族の多くは字が上手いから、優香は品格も技術も及ばないんだ」藤川咲夫は少し間を置いて、真面目な表情で言った。「でも彼女はあなたの姪だからね」