木村浩は控えめに頷き、骨ばった指で携帯を持ち、山田のお母さんのカウンターに置かれているQRコードをスキャンした。
手渡されたバラを受け取った。
新鮮なバラは包装されておらず、グラス型の花びらには真珠のような水滴が転がり、紅色のバラをより一層鮮やかに引き立てていた。
木村浩は運転席に戻り、助手席の人にバラを一輪手渡した。
車内のBluetoothは今日、退屈な学術論文ではなく、お箏の曲を流していた。藤野院長の音楽で、藤野院長は優美さと情熱を代表する存在だった。
彼の音楽もそうだった。
木村浩は少し顔を傾け、白川華怜は手にバラを持ち、それを無造作に頬に当てていた。もう片方の手は斜めに車窗に置かれ、彼女のその内向的でありながら奔放な顔は、ネットで言われているように、まさに青春真っ盛り、馬に乗って橋を渡り、楼閣には紅袖が招くかのようだった。
やはり、バラはあの人の手に持たれてこそ美しい。
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安藤秀秋の住居。
望月綾瀬は安藤秀秋と水島亜美を送り届け、今日は彼女にとってあまりにもドキドキする一日だったので、安藤秀秋の誘いで上がってお茶を一杯飲むことにした。
水島亜美は望月家の人々とは特に話すことがなく、安藤秀秋が彼らと話すのを任せて、バルコニーに行って洗濯物を取り込んだ。
藤川咲夫が中村優香を送り届けた時、ちょうど望月綾瀬がまだ帰っていなかった。
安藤秀秋と藤川咲夫は二人とも芸術の分野で活動していて、話が合うので、望月綾瀬と一緒にお茶を一杯飲むことにした。
お茶は濃厚で、望月綾瀬はお茶の味わい方を知らなかったが、藤川咲夫は知っていた。
彼は目を伏せ、少し考え込んだ。
これは望月家の人が安藤秀秋に贈りそうなお茶ではなかった。
不思議に思い、もう一言聞いてみた。
水島亜美は遠慮がちに答えた。「これは木村くんが持ってきたお茶です。」
木村くん?どの木村?
藤川咲夫はさらに聞きたかったが、水島亜美の様子を見て言葉を飲み込み、望月綾瀬と安藤秀秋に中村優香のことを話し始めた。
「書道協会の会長が彼女を入会させたいって?」望月綾瀬は藤川咲夫の話を聞いて、驚いた様子だった。