275 ただならぬ客(その1)

十月末、気温がまた少し下がった。

高橋家。

今日、望月綾芽は望月家に行くつもりはなかった。

ただ、望月哲光が仏堂から出てきたと聞いて、少し身支度を整えた。

「あなたと謙治は行くの?」彼女は新しく仕立てた服を着て、首に翡翠の数珠をかけた。

高橋裕也は上着を手に取り、「今日は謙治を劇場に連れて行くんだ」と言った。

傍らで、高橋裕也の秘書が望月綾芽を一瞥した。

その一瞥に、望月綾芽は一瞬居心地の悪さを感じた。以前は望月家も高橋家と並び称されていたが、その後望月家はこの界隈から徐々に姿を消し、高橋家も望月綾芽の身分を快く思わなくなっていた。

高橋家の娘たちを思えば、一人は木村家に嫁ぎ、もう一人の傍系の娘は渡辺翔平に嫁いだ。

高橋裕也は望月綾芽と結婚したが、もし高橋謙治を産んでいなければ、おそらく何年も前に高橋裕也と別れていただろう。