272 謎めいた海山団地、テーブルを1つ用意して（2/2）

「木村坊ちゃま」と高橋雅は少し驚いて言った。木村浩が彼女に電話をかけることは稀で、二人はLINEを持っているものの、めったにチャットすることもなく、ほとんどの用件は木村錦から伝えられていた。「どうして私に電話をくださったんですか？」

確かに珍しいことだった。

木村浩は自分の部屋に戻った。103号室に長く居たため、彼の体には薄いタバコの匂いが染み付いていた。部屋着を手に取ってシャワーを浴びようとしながら、彼は気だるげな口調で言った。「今日、コンサートに行ったの？」

以前は彼が彼女の行動をこれほど気にかけることはなかった。

高橋雅は膝に指を置き、少し考えてから驚いて言った。「まさか...彼女が私のことを認識したの？」

彼女は一言も話さず、白川華怜を見過ぎないようにしていた。何か気づかれることを恐れていたからだ。

「ああ、少し話したよ」木村浩は服を持って振り返った。

「それで、彼女は何て？」高橋雅は頭を巡らせながら、白川華怜への初対面の贈り物は決して安っぽいものにはできないと考えた。彼女は海外で収集家を特別に探し、白川華怜のために翡翠の簪を選んでいた。

木村坊ちゃまが他人からの簪の贈り物を断ってしまったため、高橋雅は今のところ白川華怜への良い贈り物を見つけられていなかった。

幸い今週にオークションがあり、高橋雅は既に木原秘書にスケジュールを押さえてもらっていた。

高橋雅は真剣な表情で言った。「それなら待たずに、私を彼女に会わせてください」

木村浩は浴室のドアを開け、鏡の前で立ち止まって言った。「彼女の予定次第だね」

「わかってます」高橋雅は微笑んだ。白川華怜という人物の存在を知ってからは、彼女に関する情報のほとんどを高橋唯から得ていた。木村浩の周りの人物について調べる勇気は彼女にはなかった。「都合の良い時に前もって教えてください」

電話を切る。

木村浩は携帯を洗面台に置き、シャツのボタンを外し始めた。

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高橋家。

望月綾芽は高橋裕也と高橋謙治の帰りを待っていた。彼女は玄関で待ち、高橋裕也の上着を受け取った。

彼は隣の高橋謙治に話しかけた。「富山のクラスで木場院長と接触したことはあるか？」

「木場院長のことはご存知の通り、いつも授業が終わるとすぐに帰られます」高橋謙治は淡々と答えた。