第35章 お姉さん、許してあげる

「卿介、お帰りなさい！どうして電気をつけないの？」仁藤心春は言って、手を振り払おうとした。

しかし、彼の手は依然として彼女の手をしっかりと押さえていた。

「手を上げさせて、電気をつけさせて。」心春は言った。この時、リビングと玄関は真っ暗だった。

「お姉さんはなぜ携帯の電源を切って、私の電話に出なかったの？」温井卿介は彼女の耳元で囁いた。

「携帯が水に落ちたから、電源が切れちゃったの。」心春は説明した。

「そう？」彼の息が彼女の耳を撫でた。「電話が通じなかった時、私がどんな気持ちだったか分かる？」

「ごめんなさい。」彼女は言った。

「じゃあ、私にキスしてくれたら許してあげる。」彼は言った。

え？心春は呆然として目の前の人を見つめた。

まだ電気がついていなくて暗かったので、彼女には彼のシルエットしか見えず、表情は分からなかった。

「キスしてくれたら、もう気にしないよ。」温井卿介は言った。

心春は少し頬を赤らめながらも、両手を伸ばして温井卿介の頬を包んだ。

キスならキスでいい、どうせ二人の間にはもっと親密なことだってあったのだから。

彼女はつま先立ちになって、温井卿介の頬に蜻蛉が水面に触れるような軽いキスをした。

「これで許してくれる？」心春は言った。

温井卿介は突然低く笑い出した。「お姉さんは純粋すぎるのかな？私が欲しいのはこんなキスじゃないよ。」

まるで子供にキスするみたいじゃないか！

彼の言葉が終わるや否や、彼の唇が彼女の唇に強く押し付けられた。

「んっ……」彼女が小さく声を漏らすと、彼はそのキスをさらに深めた。

まるで彼女を完全に飲み込もうとするかのように。

彼は片手で彼女の腰を抱き、もう片方の手で彼女の後頭部を押さえ、少しも後退させまいとした。

彼女の口の中の甘い味が、彼の焦りと不安を少しずつ和らげていった。

本来彼にとっては単なる遊びで、彼女は時間つぶしの玩具に過ぎず、ただ今の彼女が過去とどう違うのか見てみたかっただけだった。

しかし自分はどんどんのめり込んでいき、彼女に中毒になり、彼女を押し倒したいと思い、彼女を自分の側から逃がしたくないと思うようになっていた！

彼女はキスでくらくらしており、しばらくして彼はようやくそのキスを終えた。

彼女は大きく息を吸った。

「パチッ！」

彼は壁のスイッチを押した。