それは上品で優雅に見える男性で、鉄灰色のスーツを着ていた。とても端正な顔立ちだったが、歩く姿は片足を引きずっており、見ていて少し残念な印象を与えた。
まるで神様がこの男性に完璧の中の一つの欠陥を与えたかのようだった。
そして男性の隣には女性が同行していた。その女性は真っ赤なドレスを纏い、妖艶で美しい顔立ちが一層華やかに映えていた。
この男女の眉間には何となく似たところがあり、おそらく温井家の兄妹なのだろう。
「あの二人は温井家の長男の温井朝岚と三女の温井澄蓮です」秋山瑛真の言葉は、仁藤心春の推測を裏付けた。
その時、突然温井朝岚の視線が仁藤心春に向けられ、表情が少し驚いたように見えた。
その眼差しは、知っているはずなのにここにいるはずのない人を見たかのようだった。