第57章 一緒に食事をする

「べ、別に……」松田文翔は空笑いをして、「ただ、知らない人が見たら、君と彼女が長い付き合いだと思うだろうなって」

この二人の関係性には、自然で簡素な雰囲気があった。

少なくとも今日まで、彼は卿介がこのように女性と接するとは想像もできなかった。

「そうかな？」温井卿介は淡々と微笑んだ。

「今日の仕事が終わったら、お礼に皆さんを食事に誘いたいんですが」山本綾音が言い出した。

撮影が終わった時、仁藤心春と山本綾音は松田文翔のポルシェを見て、一瞬呆然とした。

この車は……彼女たちの知る限り、5000万円以下では手に入らないはずだ！

「これ、あなたの車？」山本綾音が尋ねた。

「ええ」松田文翔が答えた。

「えっと、もしかして金持ちの子息？これは……私が今日予約したレストラン、普通の店なんですけど、大丈夫かな」山本綾音は少し気まずそうだった。

こんな車に乗る人が、一人1-2千円程度のレストランで食事するだろうか？

「大丈夫です、全然！」松田文翔は慌てて言った、「家が少し裕福なだけで、そんなに大げさじゃないんです」

4人は松田文翔の車に乗り込み、山本綾音が今日乗ってきた車は、スタジオのスタッフが機材と一緒にスタジオへ持ち帰ることになった。

松田文翔が運転する中、助手席の山本綾音が感心して言った。「まさか今日、お金持ちの子息が無料で手伝ってくれるなんて、誰も信じないでしょうね」

松田文翔はバックミラーを通して後部座席の温井卿介を見た。

でも、彼よりもっと凄い大金持ちが無料で手伝っているんだ！もしこれを話したら、隣に座っているこの女性はどれほど驚くだろう。

ただ、卿介の彼女は、卿介の本当の身分を知らないのだろうか？

そう考えると、松田文翔はまたバックミラーで仁藤心春を観察し始めた。

どこかで見た顔のような気がする。

しかし考えがまとまる前に、バックミラーで卿介が彼を見つめているのに気付いた。

松田文翔は背筋が凍る思いで、すぐに視線を外した。

山本綾音が選んだレストランは人気店で、この時間帯は客も多かった。山本綾音が事前に予約していたので、待つ必要はなかった。

店員は山本綾音たち4人を窓際のテーブルへと案内した。