第61章 秋山瑛真の疑惑

仁藤心春が車を運転して団地に戻ると、道中ずっと落ち着かない様子だった。

瑛真が卿介の存在を知ってしまうとは思わなかった。瑛真の卿介に対する嫌悪感のせいで、彼女はずっとこのことを言い出せなかった。

しかし時として、隠そうとすればするほど、かえって知られやすくなるものだ。

疲れ切って車を降りた仁藤心春は、数歩歩いただけで、近くに立っている温井卿介の姿を目にした。

団地の夜灯りが彼の体に落ち、まるで暖かな光に包まれているかのようで、心春の胸の中にも温かい感覚が広がった。

これまでの長い年月、彼女はずっと一人だった。

山田流真と付き合っていた数年間も、いつも彼女が流真を待っていたのに、流真は一度も彼女をこのように待ってくれたことはなかった!

そして今、こうして誰かが彼女の帰りを待っているのだ!

もう孤独ではなくなったのだ!

「どうしてまた下りて待っているの?待つなら家の中で待っていればいいのに、外は寒いわ」心春は早足で近づきながら言った。

温井卿介は目の前の疲れた表情を見て、「お姉さんに早く会いたかったから。疲れた?」

「ちょっとね」彼女は頷いた。

しかし体の疲れよりも、心の中の不安の方が大きかった。

瑛真が卿介の存在を知ってしまった後、どうなるのかわからない。

「じゃあ早く上がって、休もう」温井卿介はそう言いながら、自然に仁藤心春の手を取り、階段の方へ歩き出した。

しかし二歩ほど歩いたところで、彼は突然足を止め、団地の入口の方を見つめた。何かを見ているようだった。

「どうしたの?」心春は尋ねた。

温井卿介はゆっくりと目を伏せ、瞳の中の冷たい色を隠した。「何でもない。今日はお姉さん一人で帰ってきたの?誰も一緒じゃなかった?」

「私一人で運転して帰ってきたのよ。誰が一緒にいるっていうの」心春は答えた。

温井卿介の薄い唇がゆっくりと上がり、かすかに笑みを浮かべた。「そうですよね」

その時、団地の外に停めてある黒い車の中で、秋山瑛真は険しい表情をしていた。

もともと仁藤心春についてきたのは、村上悠臣がどんな人物なのか見たかっただけだった。

ところが思いがけず温井卿介を目にすることになった!

なぜ心春と一緒にいるのが、塩浜市で悪名高い「狂人」の温井卿介なのか?

「卿」……

この二人の名前には、どちらも「卿」の字が入っている!