仁藤心春が車を運転して団地に戻ると、道中ずっと落ち着かない様子だった。
瑛真が卿介の存在を知ってしまうとは思わなかった。瑛真の卿介に対する嫌悪感のせいで、彼女はずっとこのことを言い出せなかった。
しかし時として、隠そうとすればするほど、かえって知られやすくなるものだ。
疲れ切って車を降りた仁藤心春は、数歩歩いただけで、近くに立っている温井卿介の姿を目にした。
団地の夜灯りが彼の体に落ち、まるで暖かな光に包まれているかのようで、心春の胸の中にも温かい感覚が広がった。
これまでの長い年月、彼女はずっと一人だった。
山田流真と付き合っていた数年間も、いつも彼女が流真を待っていたのに、流真は一度も彼女をこのように待ってくれたことはなかった!
そして今、こうして誰かが彼女の帰りを待っているのだ!