「これからは仁藤心春のことについて、報告する必要はない」と温井卿介は言った。
渡辺海辰は少し戸惑いながらも、すぐに「はい、分かりました」と答えた。
渡辺海辰が去った後、温井卿介は古びたライターを取り出し、その傷んだ表面を見つめながら、瞳が暗く曇った。
やはり、かつて彼を見捨てた人間は、もう一度彼を見捨てるのだ!
彼は彼女の言葉を信じるべきではなかった。彼から離れないと言い、死ぬまで責任を取ると約束した言葉を!
「私は、あなたのようにはならない」長い指でライターを握りしめながら、彼は呟いた。
父親のように、全ての感情を一人の女性に注ぐようなことはしない。
これからは、仁藤心春という女性のことなど気にかけない。たとえ彼女が目の前で死んでも、何とも思わないだろう。
そう、もう気にしない……