第66章 利己的な人

凤のような瞳に驚きの色が閃き、すぐに彼女の方へ歩み寄った。「お姉さん、病院で会うとは思いませんでした。どうして病院に?体調でも悪いんですか?」

「い、いえ、九段階ワクチンの相談に来ただけです」彼女は適当な言い訳をした。

以前、会社で女性同僚たちが九段階ワクチンを打ちたがっているという話を聞いたことがあった。子宮頸がんの予防になるとかで、このワクチンは生産量が少ないため予約が必要で、しかも多くの人が一つの予約枠を争うため、なかなか予約が取れないのだという。

「お姉さんもこのワクチンを打ちたいんですか?」温井卿介が尋ねた。

「ただ...ちょっと相談してみただけです」彼女は作り笑いを浮かべた。

今の彼女の体調では、ワクチンを打つことなどできない。まして一年も満たない時間で、予防する必要など全くなかった。

「それにしても、あなたはどうして病院に?」彼女は彼を見回しながら言った。彼がこんなにフォーマルな服装で、ネクタイまでしているのを見るのは珍しく、まるでエリートビジネスマンのようだった。

「ちょっと用事があって」温井卿介は答えた。

「じゃあ、この方たちは?」仁藤心春は温井卿介の後ろにいる人々を見た。

「私の同僚です」温井卿介は言った。

同僚?!温井卿介の後ろにいた渡辺海辰とボディーガードは、その言葉を聞いて体が震えた。

仁藤心春は急いで挨拶をした。「はじめまして、私は村上悠臣の...」ここまで言って、彼女は躊躇した。突然、自分をどんな立場で紹介すればいいのか分からなくなった。

友達?お姉さん?それとも...

一方、温井卿介は横で彼女を見ているだけで、彼女の言葉を助けようとする様子は全くなかった。

まるで彼女が何と言うのか見守っているかのように!

仁藤心春は唇を噛んで、最後に「友達」という言葉を選んだ。

「私は村上悠臣の友達です!」

渡辺海辰とボディーガードは急いで応じたが、渡辺海辰は目の端で横にいる温井卿介を見た。

しかしその一瞥だけで、渡辺海辰の体は思わず震えた。

彼は長年二若様の側にいて、二若様の目が沈んでいるのに唇が艶やかな弧を描いているのを見ただけで、二若様の機嫌が悪くなっていることが分かった。

「では会社の用事があるので、同僚たちと行かなければなりません」温井卿介は言った。