第86章 このまま帰るのか?

仁藤心春は秋山瑛真を見つめ、苦笑いを浮かべた。「はい、飲みます!」

そう言うと、彼女はそのボトルを手に取り、一気に飲み始めた。

医者からは、お酒を控えるように言われていた。それは病状を悪化させるだけだと。

しかし今この瞬間、彼女は飲まざるを得なかった。

もし飲まなければ、GGKのビジネスに影響を与え、瑛真は彼女をもっと憎むかもしれない!

心春は酒を飲み続けた。元々酒には強い方だったが、この強い酒が胃に入ると、内臓全体が苦しくなった。

伊藤社長は心春の様子を見て、内心得意げだった。やはり、秋山会長にとって、一支社の責任者など大したことはないのだ!

結局のところ、このような職業経営者は、一人いなくなっても、また新しい人を見つければいい、いくらでもいるのだから!

しかし、伊藤社長が横にいる秋山瑛真に目をやった時、突然背筋が凍りついた。

先ほどまで談笑していた秋山瑛真の顔は今や暗く沈み、冷たい視線で心春を見つめていた。まるで怒りを抑えているかのように!

伊藤社長は呆然とした。この女性が酒を飲んでいるのに、なぜ秋山会長はこんな表情をしているのか?!

一瞬、伊藤社長の心に不安が押し寄せた。

「秋山会長、仁藤さんがこうして酒を飲んでくださったので、私たちも一杯...」しかし、彼の言葉は途中で止まった。

秋山瑛真が彼に向けた視線に、背筋が凍るような感覚を覚えた。まるで...彼が相手を怒らせるようなことをしてしまったかのように。

もしかして...秋山会長はこの女性を大切にしているのか?

だとすれば、なぜ秋山会長は最初から止めなかったのか?むしろ、この女性が彼に強要されて酒を飲むのを放置していたのか?

伊藤社長は推測を重ねたが、答えは見つからず、ただ秋山瑛真に向かって空笑いを繰り返すしかなかった。

一本のボトルを飲み干し、心春は内臓全体が燃えるような感覚に襲われた。

そのとき、新たな声が聞こえてきた。「あら、心春じゃない。こんなところで会うなんて思わなかったわ!」

心春が顔を上げると、島田書雅と山田流真が、いつの間にか近づいてきていた。

心春は心の中で苦笑した。そうだ、このようなビジネス会合は、人脈を広げ、関係を築く機会だ。山田の会社は上場を目指しているのだから、当然このような場に来るだろう。