山本綾音が振り向くと、近くを歩いてくる温井朝岚の姿が目に入った。
彼女は一瞬驚いて、「なんて偶然…」
「隣のビルで用事があったんだ」と温井朝岚は言い、隣のオフィスビルを指差しながら、山本綾音が田中悠仁の手首を握っているところに視線を向けた。「お友達?」
山本綾音は無意識に手を離し、なぜか心の中で後ろめたさを感じた。
まったく、何を後ろめたく思う必要があるんだろう。
「心春の弟の田中悠仁よ」と彼女は紹介した。
温井朝岚の瞳が微かに動き、田中悠仁に向かって言った。「はじめまして、温井朝岚です。綾音の友達です」
田中悠仁はその名前を聞いて眉をひそめた。「温井卿介とは何か関係があるんですか?」確かに、この二つの名前はとても似ていた。
「卿介は私のいとこです」と温井朝岚は答えた。