仁藤心春も驚いた。ただの腫れだと思っていたのに!
幸い、医者が肩を正しい位置に戻してくれたので、ギプスをする必要はなく、軟膏と内服薬を処方されただけだった。
山本綾音が仁藤心春を車で送る途中、温井朝岚から電話がかかってきた。「はい、わかりました...心春を送ったら、すぐそちらに向かいます。」
「誰からの電話?」心春は何気なく尋ねた。
「温井朝岚からよ。」綾音が答えた。
心春は驚いて「彼とまだ...付き合いがあるの?」
「まあね、グラビア撮影のことで、この数日は撮影の打ち合わせで会うことが多いの。」綾音は説明した。
「グラビア?」心春は思わず息を呑んだ。「温井朝岚のグラビアを撮るの?」
「そう、実は数年前に偶然彼を助けたことがあって、その恩返しとして、私が彼のグラビアを撮ることを提案したの。でもその時は実現しなくて、今になって彼が約束を果たしたいって。」綾音は説明した。
心春は疑問に思った。温井朝岚のような人が、本当に約束を守るためだけに、綾音に自分のグラビアを撮らせるのだろうか?
恩返しの条件として、数年も経っているのに、綾音が固執していないのなら、温井朝岚は別の方法で返すこともできたはずだ。
彼女の脳裏に、あの日公園の入り口で温井朝岚が綾音を抱きしめた光景が浮かんだ。
あの様子は...まるで長い間離れ離れだった恋人同士のようだった!
「温井朝岚のことを...どう思ってるの?」心春は遠回しに尋ねた。
山本綾音は一瞬戸惑い、すぐに気を取り直して笑いながら言った。「何も思ってないわよ。ただの昔の知り合いが目の前に現れただけ。実際、私と彼は友達とも呼べないかもしれない。」
友人の心配そうな表情を見て、綾音は続けた。「安心して。私は恋愛脳じゃないわ。前にも話したけど、叔母さんがどうやって亡くなったか知ってるでしょ。だから、このような金持ちの息子との恋愛は御免だわ。今回のグラビア撮影が終わったら、彼とは関わることもないでしょう。」
心春は友人が率直な性格だからこそ、そう考え、そう言うのだと分かっていた。
でも...温井朝岚の方は?本当に綾音の言う通り、グラビア撮影が終わったら、綾音との接点を持たなくなるのだろうか?
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山本綾音は仁藤心春をマンションまで送った後、スタジオに戻って温井朝岚と会うことにした。