彼の頬の温もりが、彼女の指先に伝わってきた。
彼の唇の端が微かに笑みを浮かべ、まるで彼女の触れ方を励ますかのように、彼女の緊張も徐々に和らいでいった。
山本綾音は慎重に温井朝岚の頬を撫でていた。まるで芸術品に触れるかのように。
こんな感じだったんだ。以前のぼんやりとした記憶の感触が、少しずつ完成されていくような感じ。
本当に気持ちいいな!
将来彼の妻になれる女性は幸せだわ。毎日こんなにハンサムな顔を触れるなんて!山本綾音は心の中でつぶやいた。
彼女は夢中で触れ続け、彼もそれを許していた。
そして、社員が応接室に入ってきた——
「綾音お姉さん、前に記録をお願いしていた資料の……」残りの言葉は途切れ、相手は応接室の光景に驚いた表情で、「綾音お姉さん、本当にお客様に手を出したんですか?」と言った。
山本綾音は慌てて手を引っ込め、「違うの、そうじゃなくて…その…」と焦って言った。
「分かります、分かりますよ…」相手は急いで応じた。「資料の件は後でまた伺います。先に失礼します!」
そう言って、相手は素早く応接室を出て行き、親切にもドアを閉めてくれた。
山本綾音は思わず悲鳴のような声を上げた。
分かる?何も分かってないくせに!
「彼女に説明しに行きましょうか?」温井朝岚の声が響いた。
「いいえ、結構です」山本綾音は言った。「こういうことは、説明すればするほど怪しく見えるから。それより、先ほどお見せした案の中で、どれがお気に入りですか?」
彼女は話題を変えた。
「どれも素晴らしい」温井朝岚は言った。「全部試してみたい」
山本綾音は驚いた。全部?彼女が書いた4つの案を全て撮影するつもりなのか?
「全部撮影するとなると、時間がかかるかもしれません。週末丸々使うことになるかも!」山本綾音は言った。
「構いません。時間は作りますから」温井朝岚は言った。「衣装については、こちらで足りない場合は私の持ち物から選んでいただいても構いません。私の所にはたくさん服がありますから」
山本綾音はその言葉を聞いて、目を輝かせた。
そうだ、温井朝岚の私服なら、レンタルするよりもずっといいし、サイズもぴったりのはず。
「じゃあ、いつ選びに行きましょうか?」山本綾音の目は輝きを増した。
「今週末はどうですか」温井朝岚は言った。