山本綾音の体は硬直し、温井朝岚が彼女に示すこの優しさと温もりは、最初は気づかなかったかもしれないが、この数日で感じ取れるようになっていた。
「私と彼との間に何も結果はないわ。だから彼は私の顧客でしかないの。写真集の撮影が終われば、もう関わることもないわ」山本綾音は深く息を吸い、率直な目で親友を見つめた。
「温井朝岚のことが好きなの?」仁藤心春が尋ねた。
山本綾音は自嘲気味に笑った。「好きよ。あの時、初めて出会った時から、実は好きだったの。それは、多分一目惚れって呼べるものだったのかもしれない」
仁藤心春は驚いた表情を見せた。「その時から温井朝岚のことが好きだったの?」
「そうよ」彼女はため息をついた。「でもその時は自分でもよく分かってなかったわ。今思い返せば、きっとその時から好きだったんでしょうね。でも心春、私にはよく分かってるの。私と彼とは違う世界の人間で、私たちの生活環境は雲泥の差があるわ。彼が私の前で見せる姿も、本当の彼じゃないの」