第147章 両親から隠れる

山本綾音はどう考えても不思議に思えた。心春は一体なぜまた温井卿介と付き合い、さらには同棲までしているのだろうか?

以前、心春は温井卿介が身分を隠していたこと、そしてその関係を単なる遊びとしか考えていなかったことで別れたはずなのに、今になって...なぜまた付き合うことになったのだろう?

しかも心春は、これは温井卿介に強要されたわけではなく、自分の意思だと言っている。

では心春が温井卿介と付き合う目的は何なのだろう?まさか本当に温井卿介の権力に頼りたいとか、お金目当てということはないだろう。

「何を考えているの?」優しい声が山本綾音の耳元で響いた。

「心春がなぜまた温井卿介と付き合うことになったのかなって」山本綾音は無意識に答えた。

「私が調べてあげようか?」

「えっ?」山本綾音は我に返り、「いいえ、調べなくていいわ!」

心春がそう言うのなら、とりあえずそう信じることにしよう。心春が話したくないことなら、話してくれる日まで待てばいい。

それに温井家は権力争いが激しいという噂があり、実際家族間の関係もあまり良くないらしい。もし温井朝岚が温井卿介のことを調べ始めたら、また余計な問題が起きてしまうかもしれない。

温井朝岚は微笑んで、「何か手伝えることがあったら、遠慮なく言ってくれ」と言った。

「あ...ありがとう」突然車内が蒸し暑く感じられてきた。彼の優しさに、時々どう対応していいか分からなくなる。

まるで彼女がどんな要求をしても、すべて叶えてくれそうな感じがして。

「そういえば、温井卿介とは仲がいいの?」彼女は話題を変え、この雰囲気を和らげようとした。

「普通かな。良いとも悪いとも言えない」と彼は答えた。

「ドラマとかだと、お金持ちの家の子どもたちって、相続権を巡って命がけで争ったりするじゃない」と山本綾音は言った。

「温井家の相続権は、私が本当に欲しいものじゃない。だから卿介と命がけで争うようなことはない」と温井朝岚は言った。おそらく温井家の相続権は父が重視しているものだろう。

しかし彼にとっては、将来温井家を卿介が継いだとしても、今持っているものは全て保持できるし、独立して新しい企業グループを作ることだってできる。

山本綾音は興味深そうに尋ねた。「じゃあ、本当に欲しいものって何?」