第148章 嘘でも、私は嬉しい

温井朝岚はまつ毛を少し震わせた。彼が彼女に近づけたと思った瞬間、彼女は彼を押しのけてしまった。

「じゃあ、降りるね。送ってくれてありがとう。あなたも早く...帰ってね」山本綾音は頭を下げたまま慌てて車のドアを開けて言った。

頬が熱い。鏡を見なくても、今の自分の顔が真っ赤になっているのは分かっていた。

山本綾音が車のドアを閉めた瞬間、温井朝岚は彼女の赤くなった耳を見て、一瞬固まった。

車の窓ガラス越しに、彼は彼女が逃げるように急いで去っていく後ろ姿を見つめていた。

元々暗かった気持ちが、まるで死んだような湖面に小石を投げ入れたかのように、次々と波紋を広げていった。

もしかしたら、さっきの感情は彼だけでなく、彼女にもあったのかもしれない!

山本綾音は小走りで家に帰った。道中、顔がますます熱くなっていくようだった。

まったく、彼女は恋する乙女なんかじゃない。もう28歳なのに。仕事柄、普段からモデルやタレントと接する機会も多いし、たとえ大物じゃなくて三流四流だとしても、少なくともみんな顔立ちはいいじゃないか!

つまり、イケメンなんて日常茶飯事で、とっくに顔を赤らめる年齢は過ぎているはずなのに!

でも...山本綾音は心の中でつぶやかずにはいられなかった。イケメンの中でも、温井朝岚の容姿は間違いなくトップクラスだ。

だから...えっと、こんな反応になるのも仕方ないよね。

家のドアを開けると、山本お母さんは息を切らして顔を赤らめている娘の様子を見て、「どうしたの?顔が真っ赤よ」と言った。

「あ、帰り道で少し走って、運動したの」山本綾音は気まずそうに言い訳をしながら、キッチンに入って渇いた喉を潤すために水を飲んだ。

「お父さんと私も散歩から帰ってきたところよ」と山本お母さんが言った。

「お母さん、今日はどうしてこんなに遅く散歩に行ったの?」もう夜9時過ぎなのに、普段なら夕食後の7時頃に散歩に行くはずなのに!

「お父さんが近所の新しいショッピングモールを見に行きたいって言うから、遅くなっちゃったのよ!」と山本お母さんが答えた。

「どうだった?新しいモール、良かった?」山本綾音は話題を探して聞いた。