第148章 嘘でも、私は嬉しい

温井朝岚はまつ毛を少し震わせた。彼が彼女に近づけたと思った瞬間、彼女は彼を押しのけてしまった。

「じゃあ、降りるね。送ってくれてありがとう。あなたも早く...帰ってね」山本綾音は頭を下げたまま慌てて車のドアを開けて言った。

頬が熱い。鏡を見なくても、今の自分の顔が真っ赤になっているのは分かっていた。

山本綾音が車のドアを閉めた瞬間、温井朝岚は彼女の赤くなった耳を見て、一瞬固まった。

車の窓ガラス越しに、彼は彼女が逃げるように急いで去っていく後ろ姿を見つめていた。

元々暗かった気持ちが、まるで死んだような湖面に小石を投げ入れたかのように、次々と波紋を広げていった。

もしかしたら、さっきの感情は彼だけでなく、彼女にもあったのかもしれない!

山本綾音は小走りで家に帰った。道中、顔がますます熱くなっていくようだった。