第152章 私は拒否する

仁藤心春は仕事を終えた後、入院中の悠仁を見舞いに病院へ向かった。

いとこの橋本春菜も病室にいて、仁藤心春を見るなり笑顔で「あら、いとこのお姉さん、また悠仁を見舞いに来たの?」と声をかけた。

仁藤心春は軽く返事をし、病床に近づいて田中悠仁に「今日の調子はどう?」と尋ねた。

「まあまあかな」と田中悠仁は答え、仁藤心春の包帯が外れた右手に目を向けて、少し躊躇いながら「君の手は、どう?」と聞いた。

彼女は一瞬戸惑った。彼の口調は淡々としていて、ただの日常的な質問のようだったが、それでも彼が彼女の怪我を気にかけていることは確かだった。

仁藤心春は鼻の奥がつんとして、「大丈夫よ、傷はもう痂になり始めてる」と答えた。

「見せて」と彼は言った。

仁藤心春は脇に垂らしていた右手をむしろゆっくりと握り締め、「見る必要なんてないわ。見栄えの良いものじゃないし」と言った。