麻辣鍋を食べ終わると、山本綾音は顔を上げ、温井朝岚が手に持っているまだ開封されていないコーラを見て、そっと目を伏せた。「私、食べ終わったから、行きましょうか」
彼女はそう言いながら、立ち上がって店主の前に行き、スマートフォンを取り出して支払いをしようとした。
「私が払うよ」と温井朝岚が言った。
「私がここで食べたいと言ったし、食べたのも私なんだから、当然私が払います」山本綾音は自分で支払うことを主張した。
温井朝岚のまつ毛が少し震え、この時の彼女は、まるで意図的に二人の間に距離を置こうとしているように感じられた。
「近くを散歩しましょう、食後の消化に」彼女は支払いを済ませた後、彼の方を向いて言った。
「うん」彼は微笑みながら答えた。
山本綾音が先に歩き出し、温井朝岚は足を引きずりながら彼女の後ろをついて行った。
彼は歩行が不自由だったが、彼女にペースを落とすよう頼むことはせず、できる限り彼女の歩調に合わせようとした。
彼が足を引きずって歩いていたため、道行く人々の視線を集めていたが、温井朝岚はそれらの視線を全く気にせず、ただ山本綾音の後を追っていた。
山本綾音は考え事をしていて、周りの人々の視線に気付いていなかった。
橋のたもとに着いた時、彼女は突然立ち止まり、温井朝岚も足を止めた。
「ここなら、静かですね」山本綾音が言った。この辺りはこの時間帯、たまに一人二人が通るだけで、話をするのに適した場所だった。
「そうだね、静かだ」温井朝岚が答えた。
山本綾音は目の前の温井朝岚を見つめた。街灯に照らされた彼は、まるでドラマの中の貴公子のようで、普通なら、このような人と自分との間には、きっと何の接点もなかったはずだと思った。
深く息を吸い込んで、山本綾音は言った。「はっきりさせておきたいことがあります」
温井朝岚は一瞬固まり、目に何かを悟ったような色が浮かび、彼の顔に浮かんでいた薄い微笑みも消えて、不安げな表情に変わった。「何を言いたいんだ?」
「これからは私に会わないでください。残りのグラビア集も、撮影したいなら一日で終わらせましょう。撮影が終わって、グラビア集が完成したら、私たちの間には何の関係もなくていいです」山本綾音は一気に言い切った。
そう言う時、彼女は温井朝岚の表情を見る勇気が持てなかった。