山本綾音は淡々と言った。「知りたくないわ。あなたのお兄さんと私には何の関係もないから、彼がどうなったかなんて知る必要もないわ」
一度切るべきなら、徹底的に切るべきだ。彼に関する情報を一切聞かないことで、初めて心が落ち着くのだから。
「まさか、あなたがそんなに冷酷だとは思わなかったわ、山本綾音。お兄さんのことが好きじゃないなら、もっと婉曲な理由で断ればよかったのに。でも、あなたは直接お兄さんの足のことを嫌うなんて。何?片足が不自由だから、あなたには相応しくないって言うの?」温井澄蓮は冷笑した。「そのうち、あなたの両足が不自由になったら、誰が誰に相応しくないか、見てみましょう」
傍らで聞いていた仁藤心春は、心が凍りついた。やはり温井家の人間は狂っている。温井澄蓮が塩浜市で噂になっていた事件も、ただの恋人の浮気で、直接恋人を病院送りにしただけの、ゴシップニュースのような騒動に過ぎなかったのに。
しかし、一度本気で手を出せば、残虐で血に飢えた存在になるのだ。
「温井さん、そんなに追い詰める必要はないでしょう!」仁藤心春は友人を擁護して言った。「恋愛は二人の問題です。綾音さんはもうお兄さんとはっきり話をつけたのですから、この件はここで終わりにしましょう」
「何ですって、仁藤心春。あなたも山本綾音がお兄さんを侮辱したのが正しいと思うの?足が不自由なのは、お兄さんの責任じゃない。誘拐犯が原因なのよ。あなたたち、彼がどんな悲惨な目に遭ったか知ってる?なのに、それを使って彼を傷つけるなんて?」これは彼女が耐えられないことだった!
特に...あの日、誘拐犯の本来の標的は年齢の若い彼女だった。彼女の方が比較的簡単に誘拐できたはずだった。
しかし、思いがけない巡り合わせで、お兄さんが誘拐されてしまったのだ!
ある意味では、お兄さんは彼女の代わりに苦しんだと言えるのだ!
だから温井澄蓮は常に兄の足のことに深い罪悪感を抱いていた。今、山本綾音がこの理由で温井朝岚を拒絶したことは、まさに彼女の地雷を踏んだようなものだった。
仁藤心春はため息をついた。彼女は綾音がこんな理由で温井朝岚を断ったとは知らなかったが、綾音の考えは想像できた。
断るなら、思い切って、この恋を完全に断ち切るべきだと。
きっと綾音は温井朝岚にあんな言葉を言う時、自分も辛かったに違いない!